懲戒解雇とは、違法行為や重大な違反行為を犯した社員に対して、会社から課せられる制裁罰です。会社の業績不振などによる整理解雇や、職務能力欠如を理由とする普通解雇とは異なり、労働者にとっては社会的死刑ともいえるほどの不利益を受けることになります。例えば、履歴書には前職の退職理由に懲戒解雇と記載しなければなりません。そうなれば、再就職は極めて困難です。さらに、失業給付を受ける場合や税制面でも一定の制約を受けることになるなど、退職後の生活に大きな影響を及ぼします。従って懲戒解雇は、厳格な判断のもとに慎重に有効性が判断されなければなりません。
ところが、社員を解雇するために、事件を捏造して懲戒解雇に及ぶ手法が増えているのです。
●違法な懲戒解雇の事例
ある会社で実際にあった懲戒解雇の事例を紹介しましょう。
アパレル会社に勤務するA氏は、営業部門の部長職として勤務していました。ある日、社長に呼ばれ、「会社の業績が悪いから今月末で退職してもらいたい。A氏の個人としての業績も満足できるものではなく、これ以上会社にいてもらっても困る。これは取締役会の決定事項だから拒否はできない」と、突然退職勧奨を受けました。
A氏は動揺しつつも「会社のためを思い、随分と尽くしてきました。残念ですが仕方ありません。相当額の積立金や立替金があるので、まずはそれを精算してください」と、会社側へ金銭の精算を求めました。また、継続的な話し合いを求めましたが、社長が激高し拒否したことから、外部の労働組合(ユニオン)に入会しました。
ユニオンは会社側に交渉を申し入れましたが拒否されました。本来、企業はユニオンが申し入れた団体交渉を正当な理由なくして拒否する事はできません。正当な理由のない団体交渉拒否は不当労働行為となります(労働組合法第7条第2号)。そこでユニオンは、東京都労働委員会に救済申し立てをしました。
一般的には、紛争が労働委員会などの行政委員会に移行すれば、企業は和解に向けた協議を開始するものです。労働委員会も早期解決を促し、泥沼になる前に金銭で解決することが大多数です。
ところが、中小企業は金銭解決をするだけの余力がない場合も少なくありません。また和解するまでの該当社員の給与も負担しなければならず、そのような負担を避けるために懲戒解雇という強硬手段に打って出る企業があるのです。A氏も、そのように理不尽な懲戒解雇を受けたのです。