異次元緩和開始の直前である2013年3月31日時点での日銀の国債保有額は125兆3000億円(長期国債91兆3000億円、短期国債34兆円)だった。これが異次元緩和により14年9月20日時点では232兆6000億円(長期国債181兆1000億円、短期国債51兆5000億円)と、107兆3000億円も増加している。この間に国債は約50兆円しか発行されておらず、日銀は異次元緩和で国債発行額の倍以上を保有したことになる。
確かに、日銀は異次元緩和を継続しており、金融緩和の停止と政策金利の引き上げ(利上げ)や、緩和のために購入した保有国債等の処理・売却を行う状況にはない。しかし、日銀が出口戦略を行う場合の“頼みの綱”だった年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)やゆうちょ銀行は運用方針を変更、それまでのような資金運用のための国債の大量購入をやめ、株式などへの運用を増加し、それまでの国債での運用残高そのものも減少させている。日銀は国債の大口購入者を失ったことで、出口戦略が一段と難しくなった。
売却に動けば暴落する危険も
日銀が保有する大量の国債を、金融緩和の出口戦略として処理・売却に動けば、国債価格は暴落し、金利は急上昇する可能性がある。それは、過去の歴史も証明している。
例えば1979年、第2次オイルショックに見舞われた日本ではインフレ懸念が台頭していた。このため、日銀は80年にかけて公定歩合を通算5回引き上げ、3.50%から9%にした。この時、78年度に発行された表面利率6.1%の国債(通称:ロクイチ国債)が暴落する。79年1月には6%台後半だった利回りが、80年4月上旬には12%超まで上昇した。これは額面100円の債券が70円台にまで下落したことになる。
国債の暴落により損失が発生すれば、日銀の経営の健全性にも影響する。日銀は、利益を国庫に納めている。歴史上、日銀が赤字決算となり納付金が停止したのは、71年度下期(71年10月~72年3月)のみ。この時は、ニクソン・ショック後の円の切り上げに伴い、保有する外債に大幅な為替差損(4508億円)が発生し、1376億円の損失金を計上することになり、国庫へ納付ができなくなった。日銀が国庫納付金を納められないということは、すなわち税収の減少と同じであり、実質的にその減少分を国民の税金で負担することを意味する。
さらに、日銀の自己資本比率の低下を招き、ひいては日銀の独立性を低下させる可能性を秘めている。実際、過去にも日銀は自己資本比率の低下に歯止めをかけるため、04年度決算で通常は5%と決まっていた剰余金からの法定準備金への積み立て率を10%とする特別措置を財務省に認めてもらった。この特別措置をめぐり、財務省との間で交わされたやりとりによって日銀の独立性が低下したといわれている。
国債価格を暴落させずに日銀が保有する国債を売却するために、日銀はさまざまな方法を検討する必要がある。その方法を見つけることができなければ、国債価格が暴落し、金利は急上昇、それに伴い住宅ローン金利が急上昇するなど、国民の生活に大きな悪影響が及ぶ可能性がある。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)