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日銀、なぜ“予想外”追加金融緩和?消費増税で急激な経済悪化、政府に投げられたボール

文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授
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 2つ目は、日銀が指摘したように物価面のリスクである。消費者物価指数は消費増税以後低迷を続けており、最近では下落傾向をみせていた。また、将来の物価水準予測をみても、低迷ないし下降の兆しをみせ始めていた。

 3番目は、賃金や低所得層に与える影響である。賃金については、消費増税が特に実質賃金の上昇を著しく妨げた。日本経済は12年後半から回復基調に乗り、それが確実になったのは13年前半からであった。安倍政権の経済政策であるアベノミクスの目的は、第一にデフレ脱却にあった。

 実質賃金とは、物価水準で名目賃金を割ったものである。デフレを脱却すると分母の物価水準が上昇するので、実質賃金は当初低下することにより企業にとっては採用コストが低下し、失業率が低下していく。やがて雇用状況が改善していくと、人手不足などの現象が目につくようになり、今度は実質賃金が上昇に転じていく。

 以上が経済学に基づくシナリオだが、消費増税がこれを妨げた。簡単な試算では、実質賃金は一般労働者、パート労働者ともに初夏にはプラス領域に突入していたはずだったが、現時点では消費増税の影響で実質賃金は大幅に低下している。ちなみに経済が大きく落ち込む中での実質賃金の低下は、雇用の増加にはつながらない。

 このような情勢の中で、日銀の姿勢は前述の通り今回の追加緩和までは「強気」のように市場関係者には映っていた。正確にいえば、追加緩和するにしてもそれは安倍晋三首相が消費再増税を決断した後になるのではないか、という見方が有力だった。これは、一貫して政府に消費再増税を計画通り実行することを求めていた黒田総裁が、その「駆け引き」の材料として追加緩和を利用するという見方だ。つまり日銀が早急に緩和してしまうと、消費増税による経済の悪化を認めたことになる。日銀の追加緩和が政府の再増税の決断を鈍らせてしまう可能性を黒田総裁は避けたいという、政治的な解釈だった。

 もちろん日本経済の状況は一刻も早い追加緩和を求めていたし、筆者も昨年から一貫して追加緩和などの積極的な景気対策の必要を訴えてきた。今回、かなり遅れてではあるが、日銀が追加緩和したことは日本経済にとって喜ばしい出来事だろう。

●消費再増税への影響

 今回の追加緩和をめぐり日銀内部もかなり議論が紛糾したらしく、金融政策決定会合での票決は5対4と割れた。しかし追加緩和が行われたとしても、その効果は株価や為替レートなどには比較的早く反映されるが、今問題になっている国内需要や物価、賃金動向に好影響をもたらすまではラグ(時間の遅れ)が生じる。このことは消費再増税に重要な意味を持つ。なぜなら政府の消費再増税の判断は、早くて11月中、遅くても12月初旬にかけて行われるが、その時に参考となる判断材料はおそらく悪い数値のオンパレードである。日銀の今回の判断もその「悪い素材」のひとつになる。再増税を実行したいに政府とっては不利な状況にも思える。

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