今回の追加緩和の中味は次の2点からなる。
(1)マネタリーベース(資金供給量)の増加額拡大
(2)資産買入額の拡大と長期国債買い入れの平均残存年限の長期化
黒田東彦総裁就任以降の日銀の政策スタンスである「量的・質的金融緩和」の「量」「質」両面でのてこ入れがなされたといっていい。
日銀は2015年の終盤までに2%のインフレ目標を達成するとして、黒田総裁をはじめ首脳陣は強気のシナリオを変更することはなかった。日銀の説明によると、今回の追加緩和の理由は、特に4月の5%から8%への消費増税の影響と原油価格の大幅な下落による物価下押しリスクがあることだ。31日の黒田総裁の記者会見では、長年続いたデフレ期待の定着を払しょくするためにも、この物価下押しリスクを未然に防ぎたかったことが強調されていた。石油価格の大幅な低下は、足元では確かにデフレリスクをもたらしてしまうかもしれないが、日銀も認めているように中長期的には日本経済にプラスに寄与し、むしろインフレ要因に転換する可能性が大きい。そのため、今回の追加緩和が重視したのは、石油価格の下落よりも、消費増税がもたらした日本経済の減速のほうだといってよい。
●深刻化する日本経済
実際に消費増税が日本経済に与えた悪影響は、以下の3点が示すように極めて深刻だ。
ひとつは経済成長率が大きく減速したことである。例えば、実質経済成長率はマイナス7.1%(4-6月期)の落ち込みであった。特に消費や投資といった内需の減少幅はマイナス11%を超え、この数字は前回の消費増税(1998年、マイナス5.8%)、リーマンショック(08年、同1.1%)、東日本大震災(11年、同5.7%)などの過去の経済危機的な状況に比較してもはるかに厳しい下落だ。注意すべきは、低所得者層ほど家計への負担が深刻なことである。4月から8月にかけての消費(対前年比)は、最も所得の低い層で同12.1%と大幅な下落である。これは今後、深刻な経済格差をもたらす可能性が大きい。