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江川紹子の「事件ウオッチ」第21回

DHC吉田会長が名誉毀損訴訟で全面敗訴ーーそれでもマスコミが報じない“言論弾圧”

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 暴力によるテロや国家権力による弾圧は、その不当性が誰の目にもはっきり目に見えやすい。それに対してSLAPPは、裁判という合法的な行為による民間人同士の争いの体裁をとっているだけに、問題が見えにくい。だが、見過ごし続けていけば、いつの間にか特定の組織や人物がタブー化し、批判をしたり掘り下げた取材や報道を控える風潮ができたり、政治とカネなど公にかかわる事柄を自由に議論しにくい雰囲気が出来上がってしまうことも起きかねない。じわじわと言論の自由が後退するような事態を作らないためにも、メディアはこうした裁判の結果は、しっかりと伝え、記録していく必要があるのではないだろうか。そして、その訴訟に言論抑圧の意図を感じた時には、しっかり指摘していくべきだろう。

 産経新聞は、慰安婦問題で非難されている元朝日新聞記者が、過去に書いた記事を「捏造」と決めつけた学者らを相手に裁判を起こした際、「言論には言論で対峙すべき」と社説に書いた。「言論には言論で」の言葉は、折本弁護士や澤藤弁護士に対する裁判のように、市井の人の「言論の自由」がカネの力で脅かされている時にこそ発してもらいたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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