2月18日、日銀は金融政策決定会合で当面の政策を現状維持する方針を決めた。景気判断については「緩やかな回復基調を続けている」と、ほぼ据え置いた。生産や輸出の判断を引き上げたものの、消費者物価の前年比は「0%台後半」から「0%台半ば」に下方修正した。会合後の会見で黒田総裁は「(追加緩和に)何かマイナス効果があるとはまったく思っていない」と強調した。
黒田総裁は原油安の影響による物価下落を認めつつも、「基調的な物価が重要だ」と強気の姿勢を崩さなかった。追加緩和が逆効果に働いているという声が日銀内部でも広まっているという一部報道については、「政策を続けることで、累積的に経済・物価に対してプラスの効果を出している」と強調した。
だが、取り巻く環境は厳しい。国債の入札は不調で長期金利は不安定。設備投資も14年10-12月のプラス幅は小幅でGDPが伸び悩む主因となった。
原油安が直撃、目立ち始めた「苦しい言い訳」
黒田日銀への市場の期待が高かったのは、13年4月の異次元緩和の開始時に「2年程度で2%」というデフレ脱却に向けた物価上昇目標のコミットメントを掲げたところが大きい。消費者物価上昇率は14年春に1.5%だったが、想定外の原油安が直撃したことで、ゼロを割り込む可能性も出てきた。達成時期を追及する声も高まっており、黒田総裁も「2年きっちりで2%になるとは、どこの中央銀行も言えない」「15年4月に2%になるとは言っていない」と、これまでにない苦しい「言い訳」も目立ち始めた。
さらなる追加緩和を予想する声もあるが、日銀は秋までは静観する可能性が高い。会見で黒田総裁は「物価基調に変化が出るようなことがあれば、躊躇なく調整する」と4回も繰り返したが、「追加緩和のカードをちらつかせることで金融政策の自由度を保ちながら、市場に物価上昇期待を抱かせる発言」(日銀関係者)との見方が支配的だ。
耐える日銀
こうした黒田総裁の発言の背景には、景気回復を見極めたいという思惑がある。大手企業は早々と2年連続のベアを容認する姿勢を示しているほか、鉱工業生産指数も14年10-12月期は3四半期ぶりにプラスに転じた。民間企業の設備投資も、内部留保を利用しての既存設備の刷新にとどまらず、借り入れ増産による拡販投資が本格化しそうな気運が高まる。景気の循環メカニズムが動き出すだけでなく、消費者物価も原油安の影響が前年比では次第に薄れていくのは間違いない。
問題はそうしたメカニズムの好循環が、数値として明確になるまでに日銀が耐えられるかだ。「2年程度で2%」の道筋が現時点よりも見えにくくなれば、市場からの圧力はこれまで以上に高まる。「正直、ただちにもう一段階の追加緩和に踏み切ったところで、どこまで効果が望めるかは未知数」(日銀関係者)との声もある。強気な発言とサプライズ演出で円高株安をもたらした黒田日銀が、正念場を迎えている。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)