また、岡本氏が持つ水耕栽培の特許技術を地元で障害者を雇用しているNPOや山口県内の福祉法人に貸している。この水耕栽培でつくった野菜を販売することで、身障者らの自立に少しでも貢献したい考えだった。
補助金に依存しない農業を目指す
今回、岡本氏の立候補は、組織の応援がまったくないばかりか、地元の有力組織である農協や自民党を敵に回しての挑戦である。2月に立候補を表明した際には「泡沫」扱いだったのが、今や密かに支持する人たちが出始め、本命候補を少し焦らせているという。その背景には、掲げる政策がユニークで、それが実現できれば地域の活性化は十分に期待できるということもある。
岡本氏はよくこう問いかける。
「米1俵(約60kg)からおにぎりが何個できるか知っていますか」
答えは約1400個。岡本氏が訴えたいのは、いかに農家が付加価値を取り逃がしているか、という点に尽きる。その構造を説明するとこうなる。
コンビニエンスストアで売られているおにぎりは1個が約100円。単純計算して、コンビニは米1俵から14万円の売り上げが得られる。これに対して、生産者である農家が米1俵を出荷して受け取る平均的な価格は、現状では1万円程度。約13万円分の付加価値が農家から見て「下流」のコンビニに奪われているのだ。コンビニ各店舗の売り上げは、フランチャイズを束ねる東京の本社に吸い上げられ、地方の生産者にはまったくといっていいほど利益は残らない。だから補助金を当てにする。
岡本氏は、この付加価値を農家が取り戻せば、補助金に依存しない農業が展開でき、地域経済に好循環をもたらすと考えている。農家が地元加工業者などと提携しておにぎりやお惣菜をつくって販売し、可能ならば弁当類を冷凍させて輸出することも視野に入れる。こんなビジネスを展開することで、農家の手取りは増え、地域に雇用も誕生するといった考えだ。岡本氏はこの考えを「ふるさと弁当構想」と呼ぶ。
最近よく「農業の6次化が重要」といわれる。これは1次産業の農業、2次産業の加工、3次産業の流通サービスが合体して(1+2+3=6)、付加価値を原料生産者が取り込んでいくことだが、まさに「ふるさと弁当構想」がそれに当たる。
これは絵空事ではない。筆者の経験でも、検疫の許可をもらってペルーの日系移民向けにお節料理を冷凍して大量に輸出し、現地でフジモリ元大統領の娘さんたちと一緒に食べたことがある。現在は冷凍技術が発達しているので、解凍後につくりたてと同じ感覚でお節料理を食べることができる。2年前には「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されており、その存在は世界でも注目され始めている。和食弁当が「グローバル商品」になり得る可能性は十分にあるのだ。