「うちとしては、君にはぜひ幹部候補として残ってほしいと考えている。異動や勤務地などで希望があるなら、この機会にぜひ教えてほしい」などと、至れり尽くせりの慰留が始まるわけです。
一方、会社が「辞めてほしい」と思っている人の場合、こうはいきません。自分がどちらかは、面談が始まるとすぐにわかるはずです。「引き続き、会社でがんばりたい」などと発言した場合に、あの手この手で翻意させようと躍起になるに違いないでしょう。だいたい、以下のようなセリフが聞かれるものです。
「引き続きがんばるって言っても、今までがんばっていないではないか」
「正直言うと、これから待遇が厳しくなるよ」
「長い目で見たら、これだけ割増退職金がもらえるのだから、今が辞めるチャンスだ」
ここで重要なのは、間違っても「辞めろ」「早期退職しないとクビだ」などとは言わないということです。そのようなことを言えば「見えるリストラ」となり、不当解雇などを理由に訴えられると負ける可能性が高くなります。したがって、ストライクゾーンギリギリの変化球で空振りを誘うような球を延々と投げ続けるわけです。この意味で、はっきりと「解雇」と発言しているIBMの管理職は雑です。
こういう微妙なさじ加減のいる面談は、事業部の管理職ではなかなか難しいので、たいてい人事部の管理職が同席します。面談の場に人事部の管理職がいたら、「相当きついことを言ってくる」と覚悟しなければならないでしょう。
個人の防御法を考える
先日、ある人事コンサルティング会社の「退職勧奨マニュアル」なるものがインターネット上に拡散されていました。パターンから察するに、辞めさせるべき従業員、あるいはどちらでもいい従業員をいかに退職へと誘導するか、という手引書だと思われます。
この手引書には、誘導面談における攻め口の基本がわかりやすくまとめられており、「怒るにせよ泣くにせよ、感情を出してくる相手は誘導しやすいが、理詰めで話をする相手はとても誘導しにくい」と記されています。
仮にこうした退職勧奨面談に呼ばれてしまった際には、とにかく理詰めで辞める意思がない旨を伝えつつ、自分が対象に選ばれた経緯を執拗に問うことで、とりあえずその場はしのげるでしょう。「早期退職させるかどうか、どちらでもいい社員」として面談に呼ばれていたとすれば、これだけでうまく切り抜けられるかもしれません。
しかし、もし「辞めさせるべき社員」としてリストアップされているのだとすれば、こうした抵抗も一時しのぎにすぎないはずです。人事側は恐らく何度も面談に呼び出すでしょうし、それでも退職に同意しなければ「人材開発」などと称する転職訓練を施すための部署に異動させて飼い殺し状態にするでしょう。
よく会社のリストラに対して「法的には無理やり解雇することはできないのだから、無理をしてでもしがみつけ」といった処方箋を述べる人がいます。しかし、業績悪化でリストラせねばならなくなった会社にプライドも何も捨ててしがみつくことが、長い目で見て幸せかと考えると、大いに疑問があります。
(文=城繁幸/人事コンサルタント)
※本稿は、城繁幸氏のメルマガ「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」から抜粋・編集したコンテンツです。
【筆者プロフィール】●城 繁幸:人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。
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