「任意後見」「家族信託」をしておかないと、認知症の親のお金を使えなくなる!
逆に、何もしないまま認知症になってしまうと、孫のためにお金を出すどころか、自分の銀行口座からお金を出すことができません。そうすると、成年後見しかありません。成年後見人をつけると、第三者がお母さんの財産を管理してしまう可能性が高いです。孫のためにお金を使いたくても、難しいです。成年後見は「自分のため」にお金を使う制度だからです。「家族のため」にお金を使う制度ではありません。自分で後見人を決める任意後見でも同様です。しかも、任意後見は、監督人が必ずついてしまいます。
しかし、家族信託をしておけば、家族だけで財産の管理ができ、家族のためにお金を使うこともできるのです。
お母さんが亡くなったあとは……
さて、この残ったお金は誰のものになるのでしょうか。実は、これも信託で決めておくことができます。娘にあげたかったら、「残ったお金は娘にあげます」と決めておけばいいのです。ほかに子供がいて、平等にあげたければ、そのように決めることもできます。自分がお世話になった人や施設にあげたかったら、それも可能です。「残された子供たちで決めてください」とする人もいます。
自分が亡くなったら、誰に財産を渡すかを決められるのです。つまり、家族信託には遺言のような役割もあるのです。
備えあれば憂いなし
何事も事前の準備が大切ですね。
交通事故に備えた自動車保険、地震に備えた地震保険、災害に備えた避難用グッズなど、いずれもいざというときへの備えです。何も準備をしておかないと、いざというときに大変です。
法律も同じで、事前の準備が大切です。
任意後見や家族信託も、認知症に備えた保険のようなものです。気がついたら、親が認知症になり判断力がなくなっていた、という状況になると大変です。
しかし、認知症になる前に、任意後見や家族信託を設定しておけば安心です。任意後見をしておけば、これまでお金のやりくりしてくれていた人が今後も引き続きやりくりすることができます。親のためだけにお金が使えればいいというのであれば、任意後見で十分です。ただ、弁護士などが監督人になるという点を忘れてはいけません。
家族のためにもお金を使いたい、第三者の監督人もつけたくないのであれば、家族信託です。家族信託をしておけば、親が認知症になってもこれまでどおりのお金の使い方が可能なのです。
備えあれば憂いなし。親と接していて「最近、ちょっと物忘れが多くなったかも」と感じたら、任意後見や家族信託をしておけば安心ですね。
(文=川嵜一夫/司法書士・家族信託コンサルタント、イラスト協力=きのこさん/イラストAC)