絞るポイントは、次の2段階で行うこと。まずは、親世代の消費生活やライフスタイルを確認することから始めよう。
今回の消費増税の対策として、酒類・外食を除く飲食料品の購入・週2回以上発行される新聞の購入に対しては「軽減税率」が適用され、消費税が8%のまま据え置きされた。これ以外の生活費は税率10%になるが、頻繁に外食したりお酒を飲んだりするご家庭でなければ、日々の負担感は少ないはずだ。この軽減税率とポイント還元を混同している高齢者もいるので、ちゃんと分けて理解できるようにしておこう。
さらに、10月から「年金生活者支援給付金」が支給されている点も大きい。これは、65歳以上で年金収入とほかの所得の合計が年収87万9,300円以下の住民税非課税世帯に対して、最大で月額5,000円(年額6万円)が支払われるというもの。
これが支給されることで、消費増税の負担分が解消されるケースも多いはず。キャッシュレスに対して抵抗感を持つ親世代が支給対象に該当していれば、「心配する必要はない。ウチは何もしなくても良い」と一声かけてあげるだけで良いと思う。
加えて、高齢者などの低所得世帯と3歳未満の子どもがいる世帯を対象に「プレミアム付き商品券」も発行されている。対象世帯は最大2万円まで購入できるので、補助金額は最大5,000円。夫婦がいずれも住民税非課税世帯なら、2人分購入できるので、オトクになるのは1万円。ただ、利用可能期間は10月から2020年3月までの6カ月限定の措置なので期限切れには注意したい。
日本人のクレジットカードの平均利用額が約5万円といわれている。1カ月に10万円をキャッシュレスで利用したとしても、5%還元でオトクになる額は月額5,000円である。逆に、ポイント還元が受けられるからといって、高額な商品を衝動買いしたり、無駄遣いしたりするのは本末転倒。節約したほうがよっぽど効率が良い。
なお、高齢者は手近な食費から節約しようとするが、これは絶対に避けること。健康に影響を及ぼして、逆に高額な医療費がかかる病気を発症するリスクも高くなるからだ。
ニーズに応じてキャッシュレス決済サービスを選ぶ
次の段階は、アクティブシニアといわれる、消費行動も盛んで、キャッシュレスに意欲のある親への対応だ。彼らには、利用するキャッシュレス決済サービスの特徴とメリット・デメリットを整理して、どれを使うかを絞り込む作業のサポートを行おう。
キャッシュレスの主な方法は、「クレジットカード」「デビットカード」「電子マネー/プリペイドカード」「スマホ決済(QRコード)」があるが、すべてが対象になるわけではない。同事業に申請をして認められた事業者が提供するキャッシュレス決済サービスが対象で、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)の公式サイトで事業者の一覧が確認できる。
たとえば、クレジットカードの場合、イオンカード、オリコカード、セゾンカードなど。電子マネー/プリペイドカードの場合、PASMO、Suicaなどの交通系とnanaco、WAONなどのそれ以外に分けられる。そして、新規事業参入が激化しているスマホ決済(QRコード)の場合、LINEPay、paypay、OrigamiPay、楽天ペイメントなどがあり、それぞれ事前手続きの有無や還元方法、上限設定額、還元率などが異なる。
まず、スマホを持たない親であれば、スマホ決済は除外できる。交通系の電子マネーは、利用頻度が高い可能性があるものの、WEBサイトに登録など、手続きが若干面倒。子どもが最初の設定をお手伝いするか、とにかくカンタンな方法が良いというのであれば、クレジットカードがもっとも適している。手続きも不要で、ポイント還元は翌月の請求時の金額と相殺されるだけだ。
親の手持ちのカードや生活圏内を確認して、利用頻度の高そうなカードがどれか見極めて、それをメインに利用するよう、選択肢を絞ることが必要である。
ポイント還元制度が終了した後は「マイナンバーカード」?
親子で検討した結果、今回はキャッシュレスを積極的に導入しない、という結論に達したとしても、今後も同じようにするのがベストとは限らない。前述したとおり、ポイント還元制度は9カ月間の期限付きである。しかし、この短期間で今のところ約20%にとどまっているキャッシュレス普及率を国が目標とする80%に引き上げるのは難しい。
そこで引き続き、キャッシュレス化の推進のため検討されているのが、2016年に導入された「マイナンバーカード」を活用したポイント制度「マイナポイント」である。たとえば、同カードにためた電子マネーなどを使って買い物をすれば国からポイント還元が受けられる全国共通のしくみで、総務省では、9月末にこれについて検討する会議を初めて開き、年内にもシステムの詳細を決め、参加事業者を募る方針だという。
身分証として使えるマイナンバーカードの交付率は今年8月末時点で、人口の13.9%にとどまっており、こちらもなかなか普及が進まない。これに業を煮やした国は、2021年3月からマイナンバーカードを「健康保険証」としても使用できるようにする予定だという。そうなれば、多くの国民にとって欠かせないカードになるかもしれない。
いずれにせよFPとして、国がキャッシュレスを推進するのは理解できる。ただ、それと同時に、その場合の家計管理をどうするか、全世代に向けた消費者教育・金銭教育を行うことが不可欠ではないかと考えている。すでに、キャッシュレスに馴染んだ若い世代の親から、「子どもがお金を使っている実感が伴わず、浪費行動が止まらない」といった相談が少しずつ増えているのだから。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)