確定申告で不正見つかり数千万円の追徴課税…給与を低く記載、住宅ローン控除手続きで嘘
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな旅行は「3泊4日以内の旅行」です。社員旅行が福利厚生費で落とせる基準だからです。
税務調査を受けて、不正が見つかれば重加算税を賦課されます。重加算税は罰金のようなもので、賦課されれば納める税金が増えてしまいます。さらに、通常、税務調査では不正があっても5年分までしかチェックされませんが、ある条件を満たせば、それが7年になります。その条件とは「偽りその他不正の行為」です。
ぼくの知人にも、税務調査を受けて「偽りその他不正の行為」が認められたため、7年遡及された俳優がいますが、数千万円の追徴課税を納め、激しく後悔し、それからは正しく申告しているそうです。では、どのような行為が「偽りその他不正の行為」とされるのかを見てみましょう。
・確定申告書への記載を偽る
個人にお金を貸していたAは貸し付けた相手に、支払われた利息を秘匿するよう要求し、さらに利息は架空名義預金口座に預け入ていた。そのうえで確定申告書に、この利息を記載していなかったため、「偽りその他不正の行為」があるとされた。
・所得金額を過少申告
Bは、土地を売却したが、土地を分割しただけだと勝手に考えて、売却で得た所得を確定申告書に記載しなかった。ことさらに所得金額を過少に記載した虚偽の確定申告書を提出する行為や、重加算税を賦課されるほどではない過少申告も、「偽りその他不正の行為」に該当するとされた。
・売上の一部を除外
Cは、売上の一部を除外し、帳簿に記載のない代表者名義の預金口座に預け入れた。さらに、この預金口座の受取利息も計上していなかったため、「偽りその他不正の行為」とされた。
・取締役の簿外取引
ある会社の社長の父親Dは、会社の建具部門の責任者で取締役であった。会社名義で簿外の取引を行い、不正に得たお金を個人的に費消していたが、取引先は、取引の相手方をD個人ではなく会社だと認識していた。取締役の行為は法人の行為と認められるとされ、Dの行った簿外売上を法人が益金の額に算入しなかったことは、「偽りその他不正の行為により、その全部若しくは一部の税額を免れた場合」に該当するとされた。
・確定申告で給料の額を低く記載
外国人であるEは、給与を給与明細書により確認できたにもかかわらず、多くの金額を除外して確定申告書の「給与収入」の欄に低く記載し納税を免れていた。Eは、先輩からの言い伝えを信じて申告したにすぎず、“ほ脱”(脱税)の意思を持っていなかったと主張した。
だが税務署は、Eが過去に日本法人の会社員だったことがあり、800万円を上回る給与が非課税所得であると認識した合理的な根拠はないと判断。自分勝手に給与を除外して申告し、正当な納税を免れる目的で、ことさらに過少に記載した申告書を提出したことは明らかであると指摘した。
・住宅ローン控除を受けるために、居住の事実がないのに住民票上の異動を繰り返した
Fは、住宅ローン控除の条件である「自己の居住用」に該当しないにもかかわらず、控除を受けるため、購入した不動産の所在地に住んでいるかのように装い、控除の適用を受けた。しかも、複数の不動産に合わせて住民票上の異動を繰り返した。
Fは、住民票異動時には購入した家に住むつもりだった、(住んでいないと)控除の適用ができないことを知らなかった、確定申告時の税務相談で控除の適用ができると言われた、などと主張したが、「偽りその他不正の行為」とされた。
法人の会計に限らず、個人間での金銭の貸付や住宅ローン控除などでも、「偽りその他不正の行為」が認められます。不正はミスではなく、意図した不法行為です。そのため、短絡的な主張が認められることはありません。
ぼくの知人の俳優は、税務調査の後はことさら正しく申告するようになって、「節税しよう」と考えることすらもしなくなったそうです。すると、心にゆとりができて、時間に余裕ができて、仕事や人の話を聞く時間が増えて、所得が増えたと言っていました。不正の発覚に怯えて生きるか、何も気にせず事業を拡大するか、自分にとってどちらが良いでしょうか。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)