令和という新元号にも馴染み、祝賀ムードもすっかり落ち着いた今日この頃。冷静に2019年を振り返ってみると、10月には5年ぶりの消費増税もあり、家計の冷え込みを感じている人も少なくないのではないか。
また、6月には金融庁が“老後資金2000万円報告書”を発表し、物議をかもした。2017年の「家計調査」(総務省)を踏まえ、夫65歳・妻60歳の無職夫婦がその後30年間生きたと仮定すると、毎月5万5000円の赤字が生じ、トータルで1980万円不足するというものである。
しかし厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016年)によれば、60代で2000万円以上の貯蓄がある人は22.3%どまりだ。老後資金2000万円報告書はあくまでも一種の試算にすぎず、9月の審議で撤回となったが、人々への注意喚起としては充分に機能したことだろう。
では実際、老後に向けて貯蓄をするうえでは、どのような観点が求められるのか。ファイナンシャルプランナー、キャリアコンサルタントの波多間純子氏に話を聞いた。
老後の生活にはいくらかかるか、早めに試算するべき
「老後資金2000万円報告書は、定年を間近に控えているのに貯金ができていない層から見れば、非常にショッキングな内容だったと思います。一方、ある程度の貯金ができている層は『2000万円かどうかはともかく、そりゃあ多少のお金はいるだろう』と、冷静に受け止めたのではないでしょうか。
定年を迎える60~65歳の期間は、仕事をしても給料が下がるのが一般的です。50歳以上の方には毎年の誕生月に『ねんきん定期便』が届き、自分が65歳になったときに受け取れる年金の見込み額がわかりますから、年金と給料だけでひとり、あるいは夫婦で本当に生活していけるのかどうか、シミュレーションしてみることが大切になってきます。
そこで『これだと月々いくら足りない』という計算結果が出てしまったとしても、早い段階で気づいておくに越したことはありません。自分は定年後も働くべきなのか、退職金を受け取っても年金が支給され始めるまでは温存するべきか……など、老後について考えるきっかけになるでしょう」(波多間氏)
なお、波多間氏がファイナンシャルプランナーとして活動するなかでは、「2000万円の貯蓄なんてない」という相談よりも、「じゃあ資産運用しなくては」と不安に駆られた人から、手持ちの資産を一足飛びに増やすにはどうすればいいかという質問を受けることが多いそうだ。
「その場合は、たとえ回り道になっても、こつこつと積立で増やす投資方法をおすすめしています。主な資産運用には『つみたてNISA』と『iDeCo(個人型確定拠出年金)』の2つが挙げられ、投資で得られた利益が非課税というメリットがあるものの、iDeCoの場合は60歳までお金を引き下ろせないため、ややハードルが高いでしょう。私が推奨するのは、iDeCoへの投資は確実に投資に回せる少額に抑えておき、メインはつみたてNISAに、という形で併用することです。
また、近年は大手の企業でも副業を認めるところが増えてきていますが、現実問題、副業をする余裕がある方は少ないという印象です。昼は会社で働き、夜は別のところでアルバイトという、時間を切り売りするような稼ぎ方は、決して割のいい話ではありません。よほどお金がギリギリという方は仕方ないにしても、ずっと続けられるものではないでしょう。
ただ、ブログやSNSで文章を書いたり、写真をアップしたりなど、そういった表現活動には以前よりも取り組みやすい時代になっています。すぐに収入に結びつくとは限りませんが、セカンドキャリアにつながる可能性もありますし、自分の好きな分野を極めるところから始めてみてもいいのではないでしょうか。自分自身の楽しみを得ることで充実するため、むしろ支出が減ります」(同)
目的を決めなければ、お金は一向に貯まらないワケ
60代の貯蓄状況については冒頭でも触れたが、消費者金融のSMBCコンシューマーファイナンスが1月に行った「30代・40代の金銭感覚についての意識調査2019」では、自分の貯蓄を「0万円」と回答した男女が23.1%にのぼっている。
老後のことまでリアルに想像できておらず、貯蓄もないという若い世代は、今からどういった準備をしておくべきなのか。波多間氏は「なんのために貯金するのかという順番を意識することが重要」だと語る。
「現代ではキャッシュレス決済が普及している影響からか、予算や家計を管理できていないまま、ただ流れるようにお金を使ってしまいがちです。しかしお金というものは、意識的に残そうとしなければ、たとえ収入がいくらあっても貯まりません。
もちろん人によって異なりますが、家計のバランスが崩れるほどの多額の出費が必要になるパターンとしては家を買うこと、子どもを育てることの2つが代表的なところです。家を買ったら、なるべく早めにローンを返すことを中期の目標にしなければいけませんし、子どもができたら、1人当たり月に最低1万円貯めるくらいがちょうどいいでしょう。
こうすると、子どもが18歳に育った頃には200万円ほど貯まっており、中学卒業まで国から支給される児童手当も、まったく手をつけていなければ、これまた200万円近くあるはずです。それだけあれば、高校卒業後の教育費もまかなえます。今年度からは、所得制限があるものの、私立高校の無償化や、大学進学等の給付型の奨学金制度も始まります。それほど教育費のことは怖がらず、子育てを楽しんでください。
結局、住宅ローンの返済や子どもの教育が終わらなければ、老後資金を貯めるほうにまで手が回りません。逆にいえば、そのときそのときの中期計画を守れてさえいたら、そこまで心配しなくても済むということです」(同)
さらに波多間氏は、月々の貯金額の目安について、次のようにアドバイスする。
「私は『絶対に毎月○万円貯金しなければ』という固定の金額にとらわれることよりも、“自分の収入の○%”という割合を決めて貯金することを推奨しています。日々の生活に余裕のある人は月収の20%、難しければ5%……といった具合に、自分のできる範囲でいいのです。給料日の翌日、銀行に自動積み立てされるよう設定し、まずはやってみることですね。
例えば月収の20%を毎月貯金したら、5年後には年収分だけ貯まっていることになります。そうなると大げさな話、1年間は仕事をしなくても生活できるわけですから、その時間を自分の次のステップアップにあてたり、独身の方なら結婚を視野に入れてみたりなど、貯まったお金の使い道も自然と見えてくるのではないでしょうか。当然、老後のためにそのまま残しておくというのも有効です。
極端なことをいえば、収支が1円でもプラスになっていれば生活は続けられます。要するに、『貯金がない』と嘆くのではなく、『自分なりの収入でもなんとかやっていける』という自信を持つことが大事なのです」(同)
今はまだ老後のイメージが湧かなかったとしても、貯蓄の習慣を少しずつ身につけておけば、それはきっと未来の自分を救ってくれることだろう。2020年は心機一転し、お金との付き合い方を見直してみてはどうだろうか。
(文=A4studio)