確定申告後に「納税額を少なくできた」と発覚→更正の請求したら却下!経理の誤りがアダ
元国税局職員、さんきゅう倉田です。将来欲しいものは「嫡出子」です。
会社員には馴染みがないかもしれませんが、法人や個人事業者は消費税の申告をして、消費税を納めています。売上や資本金が大きくなると、その計算や過程が複雑になり、計算方法によって、納税額に差が生まれます。経費がたくさんあれば納める消費税が減るので、会社は、支払ったさまざまなお金が、消費税を減らすことのできる経費に該当するか、確認しなければいけません。
制度が複雑なために、申告をしたあとで、別の方法で計算していれば納税額が少なくなることが判明する場合があります。会社員でも、確定申告をしたあとで雑損控除や社会保険料控除が受けられると気づいて勤務先や税務署に連絡する人がいますが、そのような場合には、「更正の請求」をして税金を還付してもらうことができます。今回は、その更正の請求が認められなかった事例を紹介します。
複雑すぎるドラッグストアの消費税計算
地方で、ドラッグストアを数店舗運営していた法人Aは毎年、正しく確定申告をしていました。そのドラッグストアには調剤薬局が併設されており、お客は処方せんを持っていけば、そこで薬を買うことができます。
ドラッグストア内のパンや飲み物、トイレットペーパーなどは消費税のかかる「課税取引」です。一方、調剤薬局における医薬品は、そのほとんどが、健康保険法が適用される医師の診察に基づく処方せんによるものであるため、消費税のかからない「非課税取引」となります。
ただし、一部に保険が適用されない自費診療の薬の販売や近隣薬局への販売があり、これらは消費税のかかる課税取引として、分ける必要がありました。
一般的な事業では、売上は消費税のかかるものばかりです。しかし、消費税のかからない取引、たとえば、土地の売買や健康保険による医療、学校教育に関する事業を主として行っている会社の消費税の計算は、手間がかかります。消費税のかからない取引が売上全体のごく一部であれば、特段気にする必要はありませんが、処方せんを受け付けて医薬品を販売しているドラッグストアのように、消費税のかからない売上がたくさんあると、消費税の計算が複雑になります。
Aは、確定申告後に店舗で行っていた、消費税のかかる取引とかからない取引の区分方法に誤りがあり、正しく区分すると納税額が少なくなると気づきました。そこで、消費税を還付してもらうために、「更正の請求」手続きを行ったのです。
【更正の請求】
納税申告書を提出した者は、申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合には、法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。
上記を読むと、更正の請求が認められる理由は、2つに限定されていることがわかります。
(1)申告書に記載した課税標準か税額の計算が、法律の規定に従っていなかった
(2)計算に誤りがあった
(1)の「法律の規定に従っていなかった」とは、法律の解釈適用についての誤りがあった場合。(2)は、解釈適用は正しいが計算過程に誤りがあった場合です。このどちらかがないと、更正の請求は認められません。
Aは、消費税の計算をする前の、消費税のかかる取引と消費税のかからない取引の区分を誤っていました。しかし、誤りはあったものの、Aの事業や店の処理を考えると、そう区分してもおかしくない合理的な区分でした。
更正の請求は、納税義務者が採用した方法に合理性がなく、それによって納付すべき消費税等が過大であれば、行うことができます。ほかの合理的な方法があるにもかかわらず、それを後から選択したいと思って行う更正の請求は認められないのです。
Aは、経理処理の誤りによって過大に納税し、そのことに気づいても救済されませんでした。複雑な税制を可能な限り把握し、不要な納税が発生しないように留意する必要があります。そのためにどうするか。やはり、良い税理士を見つけることが重要です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)