国が自動車やバイクの所有者に義務付けている「自動車損害賠償責任保険」(自賠責保険)だけでは賄えない損害をカバーするため、任意で加入する「自動車保険」(任意保険)。4台に1台はその任意保険に未加入という事態になっている。自動車事故が起きた際に事故の加害者が任意保険に加入していないと、自賠責保険を上回る損害については加害者側に賠償責任はあるものの、結局は加害者側の“財力次第”であり、被害者が“泣き寝入り”させられる可能性がある。
政府は自動ブレーキなど安全装備の普及で交通事故が減少していることから、4月から自賠責保険の保険料を平均で16.4%引き下げる。沖縄県と離島を除く一般的な2年契約の場合、自家用乗用車の保険料は現行の2万5830円から4280円値下がりして2万1550円に、軽自動車は2万5070円から3930円値下げされて2万1140円となる。保険料引き下げは2017年度以来3年ぶりとなり、ドライバーにとっては朗報だ。
自賠責保険は、国が加入を義務付けている自動車保険で、保険金は死亡事故で最高3000万円、後遺障害で同4000万円、傷害で同120万円などが保障される。一方で、近年では自動車事故による補償金や保険金は高額になっており、自賠責保険だけでは賄えない。たとえば、交通死亡事故の損害賠償の場合、被害者の性別や年齢、職業、収入額などによって差はあるものの、過去には損害賠償総額が5億円を超えた例もある。このため、多くのドライバーは任意保険に加入している。
ところが、損害保険料率算出機構がまとめた18年3月末の任意自動車保険普及率で、4台に1台が任意保険に未加入であることが明らかになった。自動車共済の加入率13.4%と合わせても、8台に1台が任意保険に未加入の状態となっている。18年3月末の自動車保有車両数は約8156万台のため、約1000万台もの任意保険未加入自動車が走っていることになる。
もし、交通事故の被害者となった場合、相手が任意保険未加入自動車であり、損害が自賠責保険で支払われる保険金を上回るときには、加害者に賠償金を支払うだけの“財力”がなければ損害賠償金や慰謝料等の支払いが行われず、被害者が“泣き寝入り”させられる可能性が高い。
沖縄は普及率低く
損保料率機構がまとめた18年3月末の任意保険普及率では、対人賠償が74.6%(自動車共済の13.4%を含めると88%)、対物賠償が74.7%となっている。この内訳を主な用途・車種別にしたのが以下の表となる。
対人賠償 対物賠償
自家用普通自動車 82.3% 82.3%
自家用小型自動車 78.9% 78.9%
軽四輪乗用車 77.2% 77.2%
軽四輪貨物車 54.6% 54.5%
自家用小型貨物車 79.4% 79.3%
自家用普通貨物車 89.3% 89.3%
営業用普通貨物車 71.7% 72.2%
営業用小型貨物車 68.4% 69.4%
営業用乗用車 71.6% 76.3%
営業用バス 88.7% 88.2%
自家用バス 74.7% 74.4%
二輪車 42.3% 43.0%
特種・特殊車 48.5% 52.5%
任意保険の普及率には地域性があり、普及率には最大で30%近い格差がある。特に、沖縄県は自動車共済を含めても、自賠責保険以外の対人賠償の普及率が低く、注意が必要だろう。
<普及率の高い都道府県>
対人賠償 対物賠償 自動車共済を含む対人賠償
大阪府 82.6% 82.8% 富山県 92.1%
愛知県 81.8% 81.9% 香川県 91.6%
神奈川県 80.0% 80.2% 島根県 91.2%
京都府 80.0% 80.1% 愛知県 91.1%
奈良県 79.6% 79.5% 石川県 91.1%
<普及率の低い都道府県>
対人賠償 対物賠償 自動車共済を含む対人賠償
沖縄県 54.0% 54.0% 沖縄県 77.9%
島根県 58.3% 58.3% 鹿児島県 81.9%
高知県 59.9% 59.8% 宮崎県 84.0%
宮崎県 60.2% 60.2% 山梨県 84.1%
秋田県 60.9% 61.1% 茨城県 84.4%
さて、自賠責保険料が引き下げられることはドライバーにとっては喜ばしいことだが、一方の任意保険は、19年10月の消費税率引き上げや人身事故の保険金が増加していることなどから、損害保険大手を中心に値上げが相次いでいる。自賠責保険料が値下げされても、任意保険料が値上がりすれば、任意保険の加入を躊躇うことになりかねない。自動車を運転する以上、事故等の賠償に責任を持つため、十分な任意保険の加入しておくことはドライバーとしての“最低限のルール”だといえよう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)