年収が増えるほど税負担も増える厳しい現実…世帯所得1千万以上はわずか1割
資産を1億円超に増やした個人投資家のことは「億り人」と呼ばれるようですが、勤労者の場合は年収1000万円以上の人がそれに該当する気がしてなりません。
筆者は20年以上前に勤労者をスピンアウトしていますが、勤労者当時には年収1000万円を得ることがステータスのようにいわれていました。年収だけで人の価値を計るものではないことは重々承知していますが、勤労者にとって年収1000万円という響きは独特のものがある気がします。
もう少し時代を溯ると、勤労者でも確定申告をすることがひとつの誇りだったと聞いたことがあります。現在は年収が2000万円以上の人が対象ですが、かつては1500万円以上の人が確定申告をしていました。
厚生労働省の「平成26年国民生活基礎調査」によれば、1000万円以上の世帯所得を得ている人は11.3%にすぎません。厳密には所得なので年収に直せばもう少し多いと思われる半面、世帯所得なので1人当たりに直せばもっと少ないと考えられます。
いずれにせよ11.3%しかいないのですから、数少ない高所得者と言い換えることはできるでしょう。長年の勤労の努力が報われがんばった末に晴れて年収1000万円になったのですから、感慨深いものがあるでしょうが、実際は厳しい現実に向き合わざるを得ないのです。
引き下げられる控除額
厳しい現実とは、税金のことです。改正されたのは数年前ですが、それが着々と実行に移されているのです。勤労者には表面上経費が認められていないため、給与所得控除があります。たとえば、計算式は割愛しますが、年収800万円の場合は200万円になります。その給与所得控除、かつては年収1000万円超の人は「収入金額×5%+170万円」で計算されていたため、年収が増えるほど控除額も増えていたのです。
ところが税制改正によりその控除額が、2013年には収入金額1500万円超の人は一律245万円、16年には同1200万円以上は一律230万円、17年には同1000万円以上は一律220万円に引き下げられる予定なのです。
給与所得控除の減額だけならまだしも、こども手当の創設や高校無償化等に伴い、16歳以上19歳未満の特定扶養親族の扶養控除の上乗せ分25万円、さらに16歳未満の年少扶養控除は廃止されているのです。これら控除の縮小、廃止は収入に関係はありませんが、勤労者として長年がんばった末に、今度は国から税負担増を押しつけられるとは、勤労者ドリームは残念ながら夢幻といえそうです。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)