「信託」と聞くと、信託銀行が営利目的で行う信託を想像する方が多いと思いますが、今回は、費用のかかる営利目的の「商事信託」ではなく、非営利目的の「民事信託」(個人信託)についてみていきます。
個人信託とは、個人(委託者)が信託行為により、家族等の信頼できる人や法人を受託者として、自分の財産(土地、金銭等)を受託者に託し、受託者は委託者が設定した特定の目的に従って受益者のために、その財産(信託財産)を管理、運営、処分する制度です。
2006年に信託法が改正され、非営利目的であれば個人でも信託業免許を持たない法人でも信託契約の受託者になることができるようになりました。
例えば、アパート経営をしていた父親(委託者)が年をとり、自分でアパートの管理をすることが大変になってきたとします。息子(受託者)にそのアパートの管理、運営、処分を任せ、自分は受益者として、そのアパートからの利益を得たいと考え、息子と信託契約を結びました。父が生きている間は、父が第1受益者として賃貸料からの利益を得、父の死亡後は母が第2受益者となって利益を得、母の死亡後は息子が第3受益者となって利益を得る信託契約を示したのが下図です。
【個人信託のメリット】
(1)委託者は二次相続以降の相続財産の移転を指示することができる
遺言では被相続人から相続人への財産移転を1回だけ指示できますが、それ以後の財産の移転を指示することはできません。つまり、遺言の場合、たとえば長男に財産を相続させるとした場合、その後は長男がどのようにその財産を利用するかを、被相続人が指定することはできません。
しかし信託を使うと、自分が死ぬまでは自分が受益者となり、自分が死んだら妻を第2受益者とし、妻が死んだら息子を第3受益者とするというように、財産の移転について最大30年間にわたる複数の指示をすることができます。