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平林亮子と徳光啓子の「女性公認会計士コンビが教える、今さら聞けない身近な税金の話」

年間数十万円単位で節税できる!「エンジェル税制」を利用しない手はない!

文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士
年間数十万円単位で節税できる!「エンジェル税制」を利用しない手はない!の画像1
「Getty Images」より

亮子「出資している会社から、株主優待券が届くと、なんだか嬉しいな」

啓子「上場企業の株主優待ですか?」

亮子「上場していない、友人の会社の株主優待」

啓子「設立や増資の際に、出資したのですか?」

亮子「増資時に出資した会社もあれば、知人から株を買い取ったケースもあります。クライアントさんに出資することもあるし」

啓子「それでは、今回は、そんな時に役立つかもしれない、エンジェル税制について整理してみます!」

出資がある要件に当てはまると

 新しい会社を応援する投資家を「エンジェル投資家」といいますが、エンジェル投資家が創業して間もない会社を応援するために投資した際に税金面で優遇される制度があります。ベンチャー企業などへの投資を促す制度をエンジェル制度といい、出資した時点で受けられる優遇措置にはAとBの2種類があります。

 たとえば友人が設立した新しい会社に出資し、エンジェル税制の一定の条件に当てはまった場合に、優遇措置Aと優遇措置Bいずれかを選択して税制優遇を受けることができます。なお、さまざまな条件があるので、それらについては次回解説します。

 優遇措置Aは「対象企業への投資額-2000円」をその年の総所得金額から控除することができるというものです。たとえば、100万円投資したら、100万円から2000円を差し引いた99万8000円を総所得金額から控除することができます。仮に、所得税率が20%の人であれば、約20万円(99万8千円×20%)の節税効果があります。

※2037年までは、復興特別所得税として所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになりますが、計算を簡素化するため復興特別所得税は考慮せずに説明します。

 優遇措置Bは「対象企業への投資額全額」をその年の他の株式譲渡益から控除することができるというものです。たとえば、その年の株式譲渡益が100万円あるという人が、企業に100万円の投資をしたら、投資額100万円をその年の株式譲渡益から差し引くことができます。譲渡益には所得税率15%の税金がかかりますので、15万円(100万円×15%)の節税効果があります。

 優遇措置AもBも、優遇対象は所得税のみです。住民税の税金計算には考慮されません。また、優遇措置Aは上限額があり、総所得金額×40%と1000万円のいずれか低いほうの額が控除の上限額となります。優遇措置Bは上限の設定はありません。

 エンジェル税制を適用できれば、所得税の額が大きく変わります。条件はいろいろありますが、ぜひ活用してほしい制度です。

優遇措置Aと優遇措置Bはどちらを選択すべきか

 優遇措置AとBは、それぞれ計算方法や上限額などに違いがあります。いずれを選択したほうが節税効果が大きいかを見極めることが大切です。

<優遇措置Aが有利な事例>

総所得金額   700万円(所得税率は20%とする)

企業への投資額 200万円

他の株式譲渡益 100万円

・優遇措置A:総所得金額から199万8000円(200万円―2000円)を控除。減税効果は約40万円(199万8000円×所得税率20%)。

・優遇措置B:100万円を株式譲渡益から控除。減税効果は約15万円(100万円×所得税率15%)。

 この場合は、優遇措置Aのほうの減税額が多く有利となるため、Aを選択すべきです。

<優遇措置Bが有利な事例>

総所得金額   500万円(所得税率は20%とする)

企業への投資額 400万円

他の株式譲渡益 300万円

優遇措置A:上限である200万円(総所得金額×40%)を総所得金額から控除。減税効果は約40万円(200万円×所得税率20%)

優遇措置B:300万円を株式譲渡益から控除。減税効果は約45万円(300万円×所得税率15%)

 この場合は、優遇措置Bのほうの減税額が多く有利となるため、Bを選択すべきです。AとBのいずれが有利になるかは、所得金額や税率、株式の譲渡益などにより異なりますので、計算してみるしかありません。一般的には、総所得金額が多く株式譲渡益が少ない場合にはAが有利になる可能性が高く、株式譲渡益が多く出た場合にはBが有利となる可能性が高いです。

将来、株を売って利益が出た場合

 エンジェル税制を適用して取得した株式を売却して、利益が出た場合の税額は、他の非上場株の売却と基本的には変わりません。売却益に15%の税金がかかります。ただし、投資時にエンジェル税制を適用した場合、株式の譲渡損益の計算方法が通常の計算方法と異なり、株式の取得金額から優遇措置で控除した金額を差し引いて売却損益を計算します。たとえば、300万円投資して優遇措置で100万円控除を受け、400万円で売却した場合。取得金額は200万円(投資額300万円―控除額100万)となり、売却利益は200万円(売却価額400万円―取得金額200万円)、税金は30万円(200万円×15%)となります。

将来、株を売って損失が出た場合

 一方、株式を売却して損失が出た場合にはエンジェル税制による優遇措置があります。損失が出た場合には、その年の他の株式譲渡益と損失を相殺できるだけでなく、その年に相殺しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって、株式譲渡益と相殺することができます。なお、投資時の優遇措置は所得税のみ対象でしたが、売却時の優遇措置は所得税・住民税に適用することができます。

 エンジェル税制の適用の際には、投資した時点、株式を売却した時点で、その年の確定申告手続きが必要となります。申告の際には資料をそろえたり申請したりと準備が必要なので、投資する前に事前に何をすべきか確認しておきましょう。エンジェル税制の要件や手続については次回解説します!

亮子「私が15年以上前にとある会社に出資した分は、エンジェル税制の要件にあてはまりそうだなあ……」

啓子「当時はこの税制はなかったですからね」

亮子「ベンチャー企業側も、これを利用すれば、出資を受けやすくなるのではないかな」

啓子「今は副業で会社をつくるのも特別ではない時代。誰でも知っておいて損はないと思いますので、次回は出資を受ける側の視点でエンジェル税制を見てみましょう」

(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表

平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表

1975年千葉県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部地理学科出身。
企業やプロジェクトのたち上げから経営全般に至るまで、あらゆる面から経営者をサポートしている。
また、女性プロフェッショナルに関するプロジェクト「SophiaNet」プロデューサーを務めるなど、経営サポートに必要な幅広いネットワークを持つ。
さらに、中央大学商学部客員講師として大学で教壇に立つなど、学校、ビジネススクール、各種セミナーなどで講義、講演も積極的に行っている。
『決算書を楽しもう!』 『「1年続ける」勉強法―どんな試験も無理なく合格!』(共にダイヤモンド社)、『相続はおそろしい (幻冬舎新書)』(幻冬舎新書)、『1日15分! 会計最速勉強法』(フォレスト出版)、『競わない生き方』 (ワニブックスPLUS新書)、『5人の女神があなたを救う! ゼロから会社をつくる方法』(税務経理協会)など、著書多数。
合同会社アールパートナーズ

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