貧乏は素敵だ。人生を豊かにしてくれる…金持ちで何不自由ない暮らしは貧しい
そして、彼女は旅行に出ようと思い立ち、カンボジアやベトナム、タイやマレーシアに行った。小さいときに学校以外、近所の人やテレビからいろいろなことを学んだように、異国の旅先で出会う人々から、旅そのものから、多くのことが学べるはずと確信したのだ。
でも、お金はなかった。両親は朝から晩まで働いていたが、家族4人が生活するだけで精一杯だった。16歳の彼女は、自分の旅の計画をつくり、分厚いフォルダーにして、資金を出してくれそうなところを回った。高校の先生がメンターになってくれた。何カ所も回って、お金が集まった。最初はひとり旅に反対した両親も、計画ができ資金が集まったときには、何も言わず送り出してくれた。彼女は8週間の旅に出た。
そして、自分の旅の経験をもとに、ドキュメンタリー映画を撮りたいと思った。学校の外で、旅が、道が、子どもたちにいろいろなことを教えてくれる。そのことを世の中の人に伝えたいと思った。
映像で伝えたいことがある
彼女は最低限の機材を揃えて、映画を撮り始めた。17歳。『Road-Schooler(道路がいろんなことを教えてくれる学校)』という彼女の最初の作品は、こうやって生まれた。小さな映画祭で上映され、たくさんの人たちが共感してくれたとき、とてもうれしかった。海外への旅を通して英語も話せるようになった。
18歳で報道を学ぶために、大学に入学。映画も撮り続ける。やはりお金はないから、アルバイトで生活費や学費を稼ぎながら、映画のための資金集めをする。クラウドファンディングも利用した。
そうやって撮った2作目のドキュメンタリーは、耳の聞こえない両親と自分と弟、4人家族の生い立ちと日常を撮った『きらめく拍手の音』(2014年)。
耳の聞こえない人の文化と、聞こえる人の文化、私は2つの文化を知っている、と彼女は語る。この映画は15年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で賞を受け、今年6月からポレポレ東中野などで公開される。