一部の都道府県で再び緊急事態宣言が発令されました。日本だけでなく、アメリカでもヨーロッパでも新型コロナウイルスの感染者数は増加を続けています。ワクチンが開発されたとはいえ、すぐに感染拡大が収束するような状況ではなさそうです。
にもかかわらず株式相場は堅調です。経済活動が再び制限されるなかで、アメリカも日本も株式相場は上昇を続けています。「株式相場は景気を映す鏡」であるのならば、下がってもおかしくないはずです。この状況は“バブル”なのでしょうか?
中央銀行主導の超金融相場
年末年始には、経済誌などで今年の株式相場の見通しが特集されます。エコノミストやファンドマネージャーなど、多くの市場関係者の予想記事が掲載されていましたが、「今の状況はバブルだ」という見方と「そうではない。適正な姿だ」という見方に分かれました。しかし内容をよく読むと、けっして相反しているわけではなく、考え方はよく似ているのです。多くの専門家が、株価が上昇している理由として挙げているのは、次の2点です。
・株式市場は、今後の景気回復を先取りしているため。
株式市場は、半年から1年半ぐらい先を読みますが、その頃には新型コロナも収束し、景気は回復するだろうと見ている投資家が多いためです。
・未曽有の金融緩和で、株価が上がりやすくなっている。
低金利だと、株価は高くなりやすい傾向があります。お金の流れで考えると、市場にあふれたマネーが株式市場に流入していると考えられます。
こうしたことが理由で株価が上昇しているという点では、多くの専門家の見方は一致しています。「企業業績を反映していない」という意味ではバブルといえますし、「理由があって上昇している」と考えればバブルではないともいえるわけです。
バブルかどうかはともかく、株価の上昇をもたらしているのは、世界各国の中央銀行による未曽有の金融緩和です。アメリカ、ヨーロッパ、そして日本の中央銀行は、コロナ禍による景気悪化を抑えるため、大規模な金融緩和を行いました。金利はゼロあるいはマイナスにまで落ち込んでいるので、国債を中心にさまざまな証券を購入しています。
下のグラフは、アメリカ(FRB)と日本(日本銀行)の中央銀行の資産規模の推移です。2020年の3月から5月にかけて、FRBはかつてないほどに資産が増えています。これは、リーマンショックの後に行った金融緩和よりも規模が大きいものです。日本銀行は、もともと資産規模が大きくなっていましたが、コロナ禍以降、さらにそのペースが拡大しています。
市場から証券を購入することで、中央銀行は購入代金を払います。そうすることで市場に資金を放出します。中央銀行としては、これによって企業の資金繰りが改善し、新たな投資が喚起されることを狙っています。ただ、今のところは新たな投資というよりは、株式市場を含めた金融市場に滞留しているようです。
景気が良くなるほうが株価は心配?
これとよく似ているのが、かつての日本の平成バブルです。円高不況の中、日本銀行の金融緩和で株式だけは上昇していきました。やがて「金余り」といわれた資金が設備投資にも回るようになり、景気は拡大していきました。好況になり、不動産価格が高騰するようになると、日本銀行は金融引き締めに転じ、バブル崩壊が始まりました。
FRBはリーマンショックの後、3度の金融緩和で資産が膨らんでいました。2018年から少しずつ資産規模を縮小していたところに、新型コロナでの異常事態が起きました。一時株価は暴落したものの、FRBの大規模な緩和で救われたと考えられます。株式相場は以前の水準を超えて上昇を続けていますが、コロナ禍のおかげでマネーの流入に勢いがついたといえるかもしれません。
今後は、感染者数の状況次第では景気の回復は遅れるかもしれません。しかし、そのために再び金融緩和が実施されれば、株価にはプラスに働くことも考えられます。景気が落ち込むほど、「半年から1年半ぐらい先には景気は回復するだろう」という見方も強くなります。逆にワクチン接種が進んで景気が早く回復すると、中央銀行が金融引き締めに転換するのも早まります。中央銀行が資産規模を減らし始めたら、要注意です。
すべてを金融緩和で説明はできませんが、コロナ収束に手間取り、景気回復が遅れるほうが、株価の上昇が続く可能性は十分にあります。少なくとも、「コロナ収束=株価上昇」「景気低迷=株価下落」とは決めてかからないほうがよいでしょう。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)