元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな減価償却資産は「車両運搬具」です。
日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者が逮捕され、大きな話題となっています。報道によると、報酬を過少申告したとして金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いが持たれているようです。ゴーン容疑者がベンチャー投資名目で海外子会社をつくり、その子会社に自宅用の高級住宅を購入させていたことも明らかになっています。
時系列で簡単にまとめると、以下のようになります。
(1)日産が60億円でオランダに子会社をつくる
(2)その子会社がマンションと家をゴーンに買ってあげる
(3)家の費用は20億円超だとわかる
(4)逮捕される
逮捕容疑は、金融証券取引法違反です。有価証券報告書に虚偽記載があったとされていますが、有価証券報告書とはなんなのでしょうか。法人は、株式を公開していれば、事業や資産、収支を書類にして提出しなければいけません。この書類が有価証券報告書です。そこには仕事の内容も書いてありますし、預金や不動産がどれくらいあるかもわかりますし、売上や経費がどうなっているかもわかります。
なかには役員報酬の項目もあり、会長や社長に支払われた給与がわかるようになっています。有価証券報告書は公開されていて誰でも見ることができるので、株を売買する、あるいは取引をするときの参考にできます。
ゴーン容疑者が実際に受け取った役員報酬は99億9800万円にもかかわらず、有価証券報告書には「49億8700万円」と書かれていたようです。おそらく、差額の一部は家の購入代金が役員報酬であると判断されたものです。このように、現金を渡さずに物を与えた場合でも、報酬や給与としてカウントされます。これを税金界隈では「現物給与」といいます。
日産は、
(1)ゴーン会長の役員報酬の過少記載
(2)日産の投資資金の私的流用
(3)日産の経費の不正支出
があったと説明しています。
経費の不正支出は、日産の社内調査で明らかになりました。役員というポジションを利用して、会社のお金で自分の欲しいものを買ったり、友達や家族とごはんを食べたりするのは、よくあることです。しかし、それを会社の「損金」にしていれば問題です。本来は、「役員給与」として処理しなければいけないところを、ほかの経費に付け替えることになるからです。
たとえば、60億円で海外子会社を設立し、それがゴーン容疑者に家を与えるために行ったことならば、その60億円すべてがゴーン容疑者への役員給与となる可能性もありますし、家の購入代金や維持費である20億円だけが役員給与となるかもしれません。
そうなると、法人が損金にできる役員報酬に該当せず、すでに経費として損金処理していれば、否認され法人税を納めることになります。また、源泉徴収も必要なので、源泉所得税も納めなければなりません。
※補足
【損金にできる役員報酬】
・定期同額給与…毎月のお給料
・事前確定届出給与…ボーナス
・業績連動給与…利益、株価、売上を元に計算して支払うお金
法人税も源泉所得税も不正があったとして、重加算税の対象となるかもしれません。重加算税が賦課されれば、納める税金は1.35倍です。延滞税も年9%ほどかかります。これはえらく大きな出費です。一度日産が払ってから、ゴーン容疑者に損害賠償請求するのか、それともそもそも追徴されないのかはわかりませんが、報道を受けて日産の株価は5%も下がってしまいました(11月20日現在)。
動機は不明ですが、昨年度のゴーン容疑者の役員報酬は、日産から7億3500万円、三菱自動車から2億2700万円、ルノーから9億5000万円で、合計19億1200万円となっています。このほかに配当がどれほどあるのかはわかりませんが、「これでは全然足りない」と考えたのかもしれません。
住宅の購入以外にも、ゴーン容疑者は、日産の資金を私的に支出していたことが今回明らかになり、日産の記者会見を見る限り、解任は免れないようです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)