野村、日興の両社ともインサイダー問題がネックとなり、幹事証券の選考から外れた。1996年に行われたJT株の売却や2000年のNTT株の売却では野村が主幹事を務めた。
JT株式の手数料は1%未満と低いため、証券会社にとって魅力的な案件とは言えないが、JTのような大型の売り出し案件の主幹事になるメリットは大きい。主幹事証券とは、銀行で言うとメインバンクみたいなものだ。
主幹事証券になれば、その会社の資金調達(たとえば転換社債や公募増資など)や株式の分割、従業員持ち株会の世話ができ、そこから発生するさまざまな手数料で稼げる。一番おいしいのは、未上場会社が上場するときだ。主幹事になって熱心に面倒見ていると、その会社の関連会社や出資先企業が上場する際にも、主幹事証券になれる公算が高くなる。
新規の主幹事の案件を獲ってこようものなら、その担当者の出世は約束され、逆に主幹事の座を同業他社に奪われたら間違いなく左遷だ。証券会社は、主幹事の座を巡って熾烈な競争を繰り広げているのである。
野村には増資インサイダー問題が強烈な逆風になった。東京証券取引所の斉藤惇社長は6月19日の定例会見で、同社に対し「インサイダーは世界的に厳しく処罰する流れにあり、アンフェアな取引で利益を出したり、何らかの形でそれを手助けすることは許されない」と批判した。とはいえ斉藤社長は、総会屋への利益供与事件で、野村證券副社長を引責辞任した人物で、有力な野村OBだ。
野村がJT株の売り出しの主幹事から落選したことで、JAL(日本航空)が今秋に計画している再度のIPO(新規株式公開)の主幹事を野村が続けられるかどうかに関心が集まる。
JALの株式約96%を保有する企業再生支援機構は、再上場に向け2011年7月1日に国内幹事証券会社を選定した。SMBC日興証券、大和証券キャピタル・マーケッツ、野村證券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5社で、このうち野村と大和をグローバル・コーディネーター(主幹事)に選定していた。
今年1月20日、JAL株式の海外での売り出しの幹事はメリルリンチ日本証券とモルガン・スタンレーMUFG証券に決まった。これにより、国内外の幹事証券会社の顔ぶれ7社が出そろった。