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声優の7割以上が年収300万円以下…インボイス制度導入で2割が廃業を検討、の衝撃

構成=長井雄一朗/ライター
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(左から)「VOICTION」を立ち上げた声優の甲斐田裕子さん、咲野俊介さん、岡本麻弥さん
(左から)「VOICTION」を立ち上げた声優の甲斐田裕子さん、咲野俊介さん、岡本麻弥さん

 2023年10月の「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)導入まで、あと1年を切った。同制度では、消費税の「免税事業者(年間売上1000万円以下)」が取引を敬遠されたり値引き要求を受けたりするケースが想定され、インボイスを発行するために「課税事業者」への登録を行えば、これまで免除されていた消費税を負担する必要が生じ、経営圧迫の要因となる。

 咲野俊介さん、岡本麻弥さん、甲斐田裕子さんの声優3名が立ち上げた有志グループ「VOICTION」は、インボイス制度反対運動の一環として、「声優の収入実態調査」(回答数260件)やフリーランスを対象とした「インボイスに関するアンケート」(回答数183件)を実施した。その結果、声優の7割以上が年収300万円以下で、2割強がインボイス制度導入で廃業を検討していることがわかったという。

 今回、「VOICTION」の3名と、広報を担当する声優の福宮あやのさんに、インボイス制度の問題点や声優業界に与える影響などについて聞いた。

インボイス制度の本当の問題点とは

――まず、「VOICTION」を立ち上げた経緯について教えてください。

甲斐田裕子さん(以下、甲斐田) 昨年、インボイス制度の内容を知り、声優業界に与える影響を危惧していました。とはいえ、詳しい内容を知っている方が少なく、口頭で説明したり資料を配ったりしても、なかなか認知が進みませんでした。このままでは先輩方から受け継いできた技術や伝統が消滅すると考えて、咲野さん、岡本さんと一緒に「VOICTION」を設立しました。現在はツイッターやホームページを通じて、声優やサブカルチャー業界の方々、また一般の方々に対して、インボイス制度の問題点や正しい情報を伝える活動をしています。

声優の7割以上が年収300万円以下…インボイス制度導入で2割が廃業を検討、の衝撃の画像1

――実際にインボイス制度が導入されると、どのような影響がありそうですか。

岡本麻弥さん(以下、岡本) まずは、インボイス発行事業者登録をしないと仕事が来なくなる可能性があることです。各事務所からは声優に対する説明が始まっていますが、一部では暗に「課税事業者になってね」との話があり、免税事業者のままではギャランティに差が出てくる可能性も示唆されたといいます。免税事業者の場合は発注元が消費税の負担を負うことになるため、たとえば同じような実力であれば課税事業者のほうを選択するといったケースも出てくると思います。

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咲野俊介さん(以下、咲野) 何よりも、若い声優にとっては貴重な時間が奪われることが問題です。収入が減る分アルバイトを増やさなければならないし、事務処理も複雑になります。もちろん納税は国民の義務ですが、声優として羽ばたいていくためには、多くの本を読み、映画を鑑賞し、舞台を見ることが大切です。

岡本 先日、個人タクシーの運転手の方と話しましたが、「5回セミナーを受けても理解できなかった」とこぼしていました。とはいえ、言われるままに登録したそうですが……。

声優の7割以上が年収300万円以下

――若い声優との交流も多い福宮さんは、どう思われますか。

福宮あやのさん(以下、福宮) インボイス制度という言葉自体は聞いたことがある声優が多いですが、まだ自分の問題としてとらえきれていない人が多いと思います。そもそも、こんなに複雑な税制そのものにも問題があると思います。

――今回の調査では、声優業界の実態も明らかになりました。

甲斐田 72%は声優としての年収が300万円以下と回答しており、とりわけ20~30代の若年層の年収が低く、約半数が100万円以下と回答しています。全体の90%以上が免税事業者に該当するといえます。一方で、1000万円以上と回答した人の割合はわずか5%で、声優の中でも一握りであることがわかります。

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咲野 基本的に、声優のギャラは歩合制です。そのため、一つひとつの仕事を丁寧にこなすことで信用を得て、仕事が増えるというサイクルを生み出しています。インボイス制度は、そういった業界の健全性をも失わせるのではないかと懸念しています。

岡本 「ギャラを上げてもらえばいい」という声もありますが、今は制作費全体が下がっているため、ギャラの値上げ交渉も難しい状況です。つまり、声優業界は、免税事業者なら仕事が減り、課税事業者になれば収入減という、どちらを選んでもいばらの道が待っているのです。

――今回の調査では、インボイス制度導入で2割強の声優が廃業を検討する、という回答もありました。

甲斐田 実際はもっと多くの方が業界から去っていくことを危惧しています。この影響は声優業界だけでなく、アニメーターや漫画家の方々も同じでしょう。そのため、今後はアニメ作品が数多くリリースされても、内容が伴わない時代が来るのではないでしょうか。インボイス制度は日本のサブカルチャーそのものに打撃を与える可能性があると思います。

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咲野 廃業を検討するという2割強の方々は、インボイス制度の恐怖を知っているということです。免税事業者のままで仕事が減り、人知れず去っていく人が増えることは十分考えられます。その中には、かつて一世を風靡した大物声優や、5年後にブレイクする若手声優もいるかもしれません。

――9月からは政治家への陳情活動も行っていますが、手ごたえはいかがですか。

甲斐田 自民党参議院議員の山田太郎氏と赤松健氏に会うことができ、お二人は予定の時間を超過しても話を聞いてくれました。その後、立憲民主党、日本共産党にはインボイス制度反対について賛同していただいています。現在は日本SF作家クラブや個人事業主、フリーランス、税理士からなる「STOP!インボイス」とも連携して、反対活動を行っています。

岡本 アニメ業界だけでなく、アニメーターや漫画家の有志の方々とも連携し、数を増やして「VOICTION」の活動を広げていきます。

咲野 インボイス制度が導入されて得をする国民は一人もいないと思っています。たとえば、会社員でもインボイス登録をしていないタクシーの領収書は経費としての精算を会社から拒否される可能性が考えられます。そのため、今は関係ないと思っている方々も含めて団結していく姿勢が重要です。

福宮 「VOICTION」の活動によって、一般の方々が「私たちもインボイス制度反対について何か行動しよう」と思うきっかけになれば、うれしいです。引き続き、応援お願いします。

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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