「保険使って家の修理できますよ」訪問型詐欺師アオサギの被害多発…有効な撃退法
昨年10月期に放送されたKing & Princeの平野紫耀さん主演の連続テレビドラマ『クロサギ』(TBS系)では、人を騙して金銭を奪う詐欺師を「シロサギ」、色恋をエサとする詐欺師を「アカサギ」、詐欺師を騙す詐欺師を「クロサギ」と説明していた。地方によって若干の違いがあるそうだが、これらは警察関係の業界用語だという。これら以外にも保険や不動産などを手口にする「アオサギ」もある。
実は筆者の自宅には何度かアオサギが訪ねてきたことがあるが、その被害実態を知っていたから騙されずに済んだ。アオサギが看過できないのは、被害者が加害者とみなされるケースもあることだ。
その少年のことは忘れられない。再配達を頼んでいた宅配便が来たのかと思って、つい玄関を開けてしまった。そこに立っていたのは、どうみても高校生にしか見えない少年だった。その冬一番の最低気温を記録した日で、薄手の真っ赤なパーカー一枚で手袋もマフラーも着けていない少年の手は真っ赤だった。彼はいきなり「●●建設のものだけど、この家古いよね? 保険金を使えるからリフォームしようよ」と言うのだ。
当然ながら自宅の単なるリフォームでは火災保険金は支払われない。あくまでも火災や風災・水災・雪災・落雷などによる損害に対して、保険約款で定められた保険金が支払われる。少年が本当に建築会社の関係者かは不明だが、恐らく使い走りだろう。
いかにもやんちゃな感じの若い男性のアオサギもいた。筆者の自宅がある地域で台風による被害もあちこちに出始めていた頃、玄関先を掃除していた私に声をかけてきた。「▲▲建設」と刺しゅうの入った作業着を着ていたが、名刺も持たずに、挨拶もなく、いきなり「今、オタクの屋根を見たけれど、台風でこんなふうにやられているよ」とタブレットを見せた。注意して見ないとわからないものだったが、自宅の屋根とは異なっていた。
「うちに任せてくれれば、保険を使えるから。保険請求もするから証券を見せて。うちがサポートすれば、そうだなぁ、100万円はもらえるよ。その代わり、保険金が支払われたら、そのなかから一部費用をもらうから」と持ちかけてきた。筆者が口車に乗らなかったのは、台風直後、屋根をチェックして被害がないことを知っていたからだ。
自然災害による損害は火災保険の補償対象
実はこの若者の話法は保険金詐欺の代表例の一つだ。特に高齢者は「わざわざ教えてくれた親切な人」と思って、こうした手口に引っかかりやすい。確かに自然災害による損害は火災保険で補償されるケースもある。しかし、このアオサギの話が詐欺だとすぐわかるのは、自然災害だと契約者が思っていても、実際には自然災害ではなく、経年による劣化が原因の場合もあるからだ。この場合、保険金は支払われない。保険会社は、調査担当者や外部機関から派遣させる「鑑定人」による事故・被害状況に関する現場調査の結果をもとに、支払いできるかどうかを判断する。そして被害額と請求額の妥当性などを精査して支払額を決定する。判断が難しい場合は、さらに調査を行うこともある。
また、被害が発生した場合にまず連絡すべきは保険会社や代理店であり、保険請求をサポートする団体や会社や建築工事会社ではない。そして、保険金の請求は原則、被保険者本人が行うことになっているので、サポート団体などが保険会社に直接請求することはできないのが一般的だ。請求時も支払い時も手数料といった費用はかからない。書類の書き方がわからなければ、保険会社のコールセンターや代理店に聞けば教えてくれる。その際の相談費用も一切かからない。
自然災害による損害が、火災保険で補償されることを知らない人も珍しくない。火災のほか、風災、水災、雪災・雹災(ひょうさい)、落雷などの自然災害による家屋や家財の損害が補償対象となる。「当社の火災保険は、火災だけが対象ではない」というテレビCMがあるが、その会社だけが補償範囲が広いイメージを持つ人も少なくない。しかし、これは大いなる誤解で、多くの保険会社が同じような補償範囲を用意しているほか、水災に関してはオプション形式の火災保険もある。
ただし、自然災害といっても、地震による損害は火災保険では補償されない。地震や噴火、津波などによる家屋や家財の損害に備えるには、火災保険に「地震保険」をセットする必要がある。
アオサギに話を戻そう。筆者宅を訪問してきたアオサギのなかには、非常に誠実そうで礼儀正しい男性もいた。住宅や建設会社では改修工事を行う前に、工事日程や施工会社、連絡先を記載したペーパーを近隣住宅に持参して訪問するのが一般的になってきた。
しかし、誠実そうなアオサギは作業服を着て、「近所のAさんの家でリフォームするので挨拶に来ました。何の挨拶状も持たずに突然すみません。今、挨拶がてらにご自宅を拝見しましたら、屋根の一部が崩れていますが、お気づきですか?」と物腰も柔らかく、丁寧な話しぶりで切り出した。その後、保険を使ってリフォームというお決まりの話となった。後日判明したが、Aさん宅の改修は真っ赤な嘘だった。
こうしたリフォームや自然災害を手口にした詐欺は、全国各地で多発している。詐欺にひっかからないためには、良さそうな話であっても、その場で即答したり、契約書にサインをしないことに尽きる。
古くなっている門扉の一部が壊れているのを見て、「ついでに、ここも保険を使って修理しちゃいましょう」と言うアオサギもいる。覚えてほしいのは、火災保険の対象は、あくまでも火災や風水災などによる家屋や家財の損害で、経年劣化による損害は対象外ということだ。
アオサギ撃退法
実は筆者は詐欺を退散させるフレーズを知っている。「知り合いに建築会社がいる」と言って断るのも一つの手だが、「うちはどこよりも工事費用が安く、仕事ぶりに定評のある業者を紹介できます」と揺さぶりをかけられる場合もある。有無を言わさぬためには、「うちは賃貸で大家さんが別にいる」あるいは「保険会社や代理店と相談する」というものだ。もちろん、詐欺の手口を知った上でのことだが。なかには「大家さんを紹介してください」と食い下がるアオサギもいるが、「大家さんの連絡先は個人情報なので、大家さんの了解を取ってからでないと教えられません。あなたの連絡先を教えてください」と切り返すと、相手は引き下がるしかない。
被害者が加害者に
自然災害などの保険金詐欺に遭ったとしても、アオサギが連絡先を変えたりして、被害額を取り返すのは、現実的には難しいとされている。こうした金銭的・精神的ショックもさることながら、何よりも怖いのは、本来の被害者であるはずの人が加害者となるケースだ。
先ほど、経年劣化による損害に保険金は支払われないと書いた。アオサギたちはその盲点を突く。実例を紹介する。火災保険に加入していたBさん宅に、アオサギがお決まりのフレーズでやってきた。アオサギは、「経年劣化で壊れた箇所もまとめて請求しましょう。高額の保険金が支払われますよ」と持ちかけてくる。もっと悪質なのは、屋根などを故意に壊すケースもあることだ。
不安に思ったBさんが、「ここは以前から壊れているけど、大丈夫なの?」と確認したものの、「こちらにお任せください」との返答だったこと、何より高額の保険金と聞いて、Bさんの心がときめいて経年劣化を知りながら保険金を請求した。だが、これこそが被害者が加害者になる第一歩だ。虚偽の理由で請求すれば犯罪となる可能性がある。調査の結果、経年劣化が明確になり、さらに契約者も「不正と知りながら犯罪に加担していた」と見なされれば、刑罰の対象となる恐れもあるので注意が必要だ。
今や情報がSNSで入手できるといっても、高齢者がSNSを使いこなして情報を取捨選択するのは容易ではない。年々、手口は巧妙になり、どこから入手したのか保険会社の請求書を持参するケースもあるという。日本損害保険協会では、こうした不正な請求に関する情報を損害保険会社などの間で情報交換することにより、公平・公正な損害額の算定や適正な保険金等の支払いを行うための制度をつくって、厳格に対処している。
雪国などでは、これからがアオサギの活躍のシーズンだといわれている。高齢の親が詐欺に巻き込まれると、子どもたちにも影響は及ぶ。一度聞いても忘れる高齢者もいるので、折に触れ、親にはアオサギのことを繰り返し話してほしいと願う。取り返しのつかないことのないように「まずは相談」が重要だが、保険会社や代理店に聞きにくい人もいることだろう。そんな人のために、日本損害保険協会が、昨年9月に保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル「0120-309-444」(さぁ連絡しよう)を開設しているので、利用してほしい。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)