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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

「法律改正で義務化。補助金使える」悪質リフォームの訪問営業増加、6つの手口

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
「法律改正で義務化。補助金使える」悪質リフォームの訪問営業増加、6つの手口の画像1
「gettyimages」より

 ひところ急増した訪問営業による悪質リフォーム。高齢者世帯を狙い撃ちにして、何回も被害に遇うケースが続出して、大きな社会問題になりました。コロナ禍で外出が難しくなっていたこともあって、このところはやや減少しているのではかと思いきや、ここへきて再び増加する兆しがみられるため、国土交通省や業界団体などが消費者に注意喚起しています。

相談件数が2年間で2割から3割増加

 国民生活センターでは、全国の消費者センターなどに寄せられた相談件数を集計して公表していますが、その最新のデータによると、リフォームに関する相談件数が増えています。なかでも、訪問販売による悪質リフォームと、点検商法といわれる手口の営業に関する相談をみると、図表1にあるように増え続けているのです。

 訪問販売に関しては、2019年度には8007件だったのが、2020年度には8784件に、2021年度には9734件です。2年間で21.6%も増えています。これは、消費者センターなどに寄せられた相談件数であり、実際には泣き寝入りしている人も多く、氷山の一角にすぎないという見方もあります。

 点検商法についても、同様です。突然やってきて、「床下などにシロアリがいそうなので点検が必要です」などと勝手に入り込んでリフォーム工事を押しつける手法です。こちらも2019年度の5760件から、2021年度には7421件に28.8%増えています。どちらも2022年度に入ってからも相談が続いていて、いっこうになくなる気配がありません。

図表1 リフォームに関する相談件数の推移         (単位:件)

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※2022年度は6月末現在
(資料:国民生活センター)

訪問販売によるリフォーム工事・点検商法(各種相談の件数や傾向)_国民生活センター (kokusen.go.jp)

リフォーム機運に乗じた手口が増加の可能性

 現状でもトラブルの相談が絶えませんが、問題なのは、今後、リフォーム機運の盛り上がりに対応して、悪質リフォームが増加するのではないかと懸念されている点です。というのも、2022年6月、脱炭素社会の実現に向けて建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部が改正されたのを踏まえ、社会的に省エネ改修機運が高まり、それに乗じた悪質リフォームが増加するのではないかと不安視されており、よりいっそうの対策の強化が求められているのです。

 具体的には、2022年10月には、国土交通省が住宅局住宅生産課名義で、「悪質なリフォーム事業者にご注意ください!!」とする消費者向けのリーフレットを作成した上で、「悪質リフォームに関する注意喚起について(協力依頼)」と題した文書を住宅関連の業界団体などに通知しました。

●国土交通省が作成したリーフレット

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悪質リフォームの具体的な事例を掲載

 たとえば、リーフレットでは、「国の制度改正で省エネリフォームが義務化されましたので、ご自宅のリフォームが必要です」と嘘をついてリフォーム工事を受注しようとする業者が増えていることを紹介しています。もちろん、リフォームが法律で義務づけられているわけではありませんが、業界知識の乏しい消費者、なかでも高齢者はリフォームしないと法律違反になるのではないかと不安に感じて契約してしまうことがあります。冷静に判断すれば、まず騙されることはないはずですが、日常的にさまざまな不安を感じている高齢者などは、ついつい騙されてしまうのです。

 この国土交通省の通知を受けて、宅地建物取引業協会連合会はホームページを通して加盟している不動産会社に対して、消費者に注意を促すように通達しています。また、最近では公益財団法人である住宅リフォーム・紛争処理支援センターが、ホームページ上で、悪質リフォームに関する相談事例を掲載し、消費者に対して具体的な例を紹介しながら、騙されないように分かりやすく解説しています。

悪質リフォームの代表的な手口6つ

 具体的な事例は次の6例です。

(1)補助金が利用できると勧められた事例
(2)省エネリフォームが義務化されたと勧められた事例
(3)床下の点検を勧められて次々と契約した事例
(4)高額な小屋裏断熱工事を勧められた事例
(5)十分な説明がなく家庭用蓄電池の設置を勧められた事例
(6)排水管の無料点検で訪問した事業者と高圧洗浄等を契約した事例

 それぞれに、どんなふうにして接近してくるのか、その手口を紹介しながら、それに対してどうするのがいいのかという対策を取り上げ、それでも騙されて契約してしまった場合でも、契約を白紙に戻せる方法があることなどが解説されています。

補助金があってもすべて負担ゼロになるわけではない

 まず(1)の補助金が利用できると勧められた事例としては、築30年の木造住宅に住んでいる人の事例が紹介されています。リフォーム業者が突然やってきて、「今なら、国の補助金を利用してサッシや高効率の給湯器に交換できる」「早くしないと、補助金の財源がなくなって、無料で工事ができなくなってしまう」とことば巧みに持ちかけられ、結果、サッシと給湯器交換契約を結びました。

 たしかに、図表にあるように、現在はリフォームの補助金制度が充実しているのですが、補助金には上限が定められており、すべてのケースで全額自己負担なしで交換できるわけではありません。また、工事代金とは別に補助金申請のための手数料として多額の別途費用を請求されることもありますから、十分な注意が必要です。

既存住宅のリフォーム工事の補助金

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(資料:国土交通省ホームページ)

省エネリフォームが義務化されているわけではない

 国土交通省では、2050年カーボンニュートラルに向けて、省エネ関連の悪質な訪問販売やリフォーム詐欺が増えるのを最も心配しています。というのも、(2)にあるように省エネリフォームが法律などで義務化されたと説明して、リフォーム契約を勧めようとするケースが増えているそうです。

 そのセールストークとしては、「法律が改正され古い住宅では省エネリフォームが義務化された。この住宅も対象で、このままだと法律違反になり罰金を払うことになるので、すぐに工事しなければならない」と消費者を脅し、さらに「今ならキャンペーン期間中なのでお得に工事ができる」と追い打ちをかけます。いうまでもないことですが、これは全部ウソです。建築物省エネ法が改正され、住宅を新築する場合や一定規模以上の増改築をする場合には、省エネ基準に適合することが求められますが、すでに建っている既存の住宅で増改築を行わない場合は、対象外ですから、法律で義務化されているわけではありません。

訪問販売にはクーリング・オフがある

(3)が点検商法の典型です。突然やってきたリフォーム業者が有無をいわせずに床下にもぐりこんで検査したように見せ、「補強が必要」「断熱材が不足している」などといって、床下の補強工事や断熱工事を勧めてきます。それも、一度工事したあと、何度もやってきて、「再度床下を補強しなければ傾く恐れがある」「まだ湿気がひどい」などと不安を煽り、再度リフォーム契約を勧めます。結果、さまざまな工事を何度となく実施、被害額は総計で1000万円を超えるケースもあります。

 これに対して、掲示を行った住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、「床下や小屋裏など、居住者が確認できない部分の工事については、訪問販売事業者のいうことを鵜呑みにしてはいけません。訪問販売であれば、クーリング・オフの適用が可能なので、早めに対応するのがいいでしょう」としています。

消費者センターでの相談も有効活用

 クーリング・オフというのは、訪問販売、電話勧誘販売などで契約した場合、いったん契約をしてしまっても、所定の手続きによって契約の申込みを撤回したり、契約を解除できる制度です。訪問販売の場合、契約から8日間のうちに書面や電磁的記録(メール)で、契約を解除することを通知すればOKです。それに対して、業者から「クーリング・オフはできない」といってきたり、脅してきたりしたときには、所定期間をすぎてもクーリング・オフが可能になります。それでも、解約に応じない場合には、近くの消費生活センターなどで相談するのがいいでしょう。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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