日本人の死因の第1位は、がん。生涯でがんに罹患する確率は男性60%、女性45%であり、2人に1人はがんにかかる計算だ。日本人にとって、最も身近な病気だといえるだろう。
一般にがんという場合、悪性新生物と上皮内新生物の2種類に分けられる。がん保険を検討するうえで、この2つの新生物の違いを理解することは避けて通れない。なぜなら、がん保険によって保険金の支払い基準が異なっているからだ。具体的には、悪性新生物なのか上皮内新生物なのかによって、保険金額が異なる。もちろん、悪性新生物の場合のほうが保険金額は高めに設定されている。
悪性新生物を、「悪性」と「新生物」の2つの言葉に分けて詳しく見てみよう。
悪性は、次の2つの条件を満たした状態をいう。
(1)浸潤(しんじゅん):周囲の組織に侵入すること
(2)転移:血管やリンパ管を通って、遠い組織に定着すること
一方、新生物には3つの条件がある。
(1)正常な細胞に由来するものである
(2)本来そこにある組織と調和がとれていない
(3)過剰な増殖を示す細胞の状態
いわば、新生物は腫瘍だと考えるとよいだろう。
基底膜を超えると、血管とリンパ管がある。つまり、基底膜を超えて浸潤した悪性新生物は転移が起こるため、手術などの治療を受けたとしても、再発して死に至ることも多いのだ。
●悪性新生物と上皮内新生物を区別して保険料をリーズナブルに
一方、上皮内新生物は、腫瘍が上皮内にとどまっている状態をいう(冒頭の図参照)。つまり、浸潤していないことが悪性新生物と大きく違う点だ。上皮より外に浸潤していないため、転移が起こることもない。手術等で根治することになる。
このように上皮内新生物は、死に至る病気とはいうことができない。死亡率0%。5年後の生存率は100%だという統計も目にする。
はたしてがん保険は、悪性新生物と上皮内新生物では同額の保障が本当に必要だろうか。がん保険の老舗アフラックは当初からこの2つを明確に区別しているが、最近は悪性新生物と上皮内新生物の保障を区別する保険会社が増えてきている。
そもそも上皮内新生物の場合、簡単な治療で治るわけだから、それほど治療費が高騰することもないだろう。つい、自分ががんにかかったといわれると、ショックを受けてしまいがちだが、金銭的に困窮するということは考えにくいのではないだろうか。
今年7月1日、楽天生命は「楽天生命ガン診断プラス」を、そしてAIG富士生命は「がんベスト・ゴールドアルファ」の発売をスタートした。両社ともいわば、悪性新生物と上皮内新生物を明確に分けたといってよい。区別することによって、がん保険の保険料自体がリーズナブルになったとも考えられるのではないだろうか。これまでは、悪性新生物と上皮内新生物両方の保険料を負担する必要があったが、治療費がかさむ可能性が高い悪性新生物に重点を置くことが可能になった。
何よりも上皮内新生物は、「転移がない」という正しい知識を持つことが、がん保険を選ぶ上で重要になってきたといえるのではないだろうか。上皮内新生物まで補償の範囲に含めて高額な保険料を払うかどうか、見直してみるといいだろう。
とはいっても、がんの原因は喫煙と食生活にあるといわれる。生活習慣を改善し、定期的な検診を受けるなど、まずは浸潤する前の早期発見に努めたい。
(文=横川由理/ファイナンシャルプランナー)