GPIFの年金資産、100%株式運用が最も良い?株式市場全体の上昇にも寄与?
数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
今国会のひとつの焦点として、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する国民の年金資産約130兆円に占める日本株式の比率を、現在の17.26%(6月末残高)から20%程度に引き上げる議論が注目を集めている。国民の大切な年金資産をリスクの高い株式で運用することの是非と、枯渇する年金資産を少しでも高い利回りで運用する必要性を天秤にかけた国会での討議が繰り広げられている。
今回は、より安心かつ安定的な利回りを確保できる年金資産運用を考察するため、あえて非常識と思われる仮説を立ててみたい。
「日本株式の比率を20%などという低い水準ではなく、2020年ぐらいまでゆっくりと時間をかけて100%にまで増やしていったらどうなるだろうか?」
つまり、国民の大切な資産をすべてリスク資産で運用すると何が起こるのか、考察してみたい。
実はこのような一見大胆にみえる運用は、ある前提条件さえ満たせば非常に良い運用効率を達成することができる。つまり年金運用は非常にうまくいくのだが、その“ある前提条件”とは、まず第一に130兆円のポートフォリオをTOPIX、つまり東証一部の株価全体に連動させることである。
巨大な資産を運用するためには、プロのファンドマネジャーの運用力が必要だと一般的には考えられている。ところが、100%株式で運用したケースを真面目に研究した人々の成果によれば、プロのファンドマネジャーの運用成績は、市場平均(TOPIXのような市場指標の平均)を常に下回っているのである。そして、90年代にリスクやリターンを取り扱う金融工学の研究が進んだ結果、結局のところ最も安全かつ安定した収益率を実現できる投資方法は、市場全体に長期的に投資をすることだと証明されてしまった。
株というものは、短期的には上がったり下がったりが激しい。その上、6年ぐらいのサイクルで定期的に不況が起きたり、株式市場全体のクラッシュが起きたりする。21世紀に入ってからでも、インターネットバブルの崩壊やリーマンショックで株価は大きく下落している。最近は欧州の経済不安やエボラ出血熱の拡大、新興国の成長鈍化などの要因で、また大きな株価下落が起きそうな兆しがある。
しかし6年でみると上昇と下落を繰り返す株式市場だが、30年単位の長期でみれば世界全体の株価は常に成長を続けている。