ビジネスジャーナル > 政治・行政ニュース > 幼保無償化、まったく無償化ではない
NEW

幼保無償化はまったく「無償化」ではなかった…税金投入で高額所得者優遇の愚策

文=小川裕夫/フリーランスライター
【この記事のキーワード】, ,
幼保無償化はまったく「無償化」ではなかった…税金投入で高額所得者優遇の愚策の画像1
「Getty Images」より

 10月から消費税率が10%に引き上げられた。今般、労働者の賃金は伸び悩んでおり、消費増税によって可処分所得はますます少なくなる。増税と同時に年金や健康保険などの社会保障費も上がっていくため、庶民の生活は苦しくなるばかりだ。

 そうなると選挙にも悪影響が出る。自民・公明の与党は消費増税に伴う痛税感を和らげるため、さまざまな手を打った。そのひとつが、生活必需品という名目で導入される軽減税率だ。政府は食料品や新聞などを生活必需品として定め、消費税率を8%のまま据え置いた。しかし、軽減税率は政府が意図するほどの痛税感を和らげる作用を発揮せず、むしろ税率が二重に並立するという混乱のほうが大きい。

 軽減税率と同じく10月1日から鳴り物入りで導入された政策が、幼稚園・保育園の保育料を減免する幼保無償化だ。幼保無償化は安倍政権が消費増税対策として打ち出したものだが、この政策についても「まやかしの政策」と業界関係者たちは口にする。

 幼保無償化は教育費の負担を軽減すると思われがちだが、実態はそんな簡単な話ではない。幼稚園や保育所には、子供を預けるための保育料と呼ばれる費用のほか、給食費や園服・園靴・園鞄といった費用がかかる。幼保無償化は、巡り巡ってこうした部分の値上げにつながる。

「差し引きすると、幼保無償化でかかる負担は変わらないかもしれません」(自治体職員)

 また、幼保無償化で教育費が軽減されると喜んでいても、その恩恵は低所得者層ほど少ない。むしろ、高所得者のほうが幼保無償化の恩恵を強く受ける制度設計になっているのだ。

「今回始まった幼保無償化は、幼稚園も保育所も一括りにして無償化するという乱暴な制度設計です。未就学児童という大枠で分類されますが、そもそも幼稚園は文部科学省の所管する教育機関という位置付けで、3歳から入園します。一方、保育所は厚生労働省が所管する福祉施設という位置付けで、0歳から入所できます。共働き家庭は0歳児から保育所に預けるのが一般的です。制度が大きく違うのに、どちらも一律に無償化するため、無償化の対象は原則3歳児からに揃えられたのです。そのため、共働き家庭が0歳児を保育所に預けても恩恵を受けられないのです」(同)

 0〜2歳児の保育料は、原則的に無償化されない。また、認可保育所の保育料は公立・私立問わず所得を基準に算出される。所得が少ない低所得者層は、すでに保育料が安く抑えられている。一方、高所得者は多額の保育料を支払っている。保育料には上限額があり、自治体によって上限額は異なるが、おおむね月6万5000円〜7万円ぐらいに設定されている。これらが一律に無償化されるのだから、幼保無償化は明らかに高所得者層を優遇している。

「それでも、保育料が無償になることで家計の負担が軽減される」と喜ぶ向きもある。しかし、無償化の財源は国民の税金で賄われている。幼保無償化という高所得者を優遇するための政策に税金を使っていることになるのだ。庶民の生活を厳しく追い込む消費増税を強行しながらも、その痛税感を和らげるための政策は高所得者に大きなメリットをもたらす。これでは、ますます格差が広がるばかりで、少子化を解決する糸口にはならない。

待機児童の解消につながらず

 そして、幼保無償化は社会問題化になっている待機児童の解消にもつながらない。なぜなら、待機児童はほとんどが0〜1歳児で起きているからだ。認可保育所には保育士の配置基準が定められており、預ける乳幼児の年齢に対応して保育士を配置するように決められている。例えば、0歳児3人に対して、保育士1人の配置が義務付けられている。仮に30人の0歳児を預かる保育所には、最低でも10人の保育士が必要になる。しかし、乳幼児の年齢が上がれば、この配置基準は緩和される。3歳児以降は幼児20人に対して保育士は1人ですむ。

 こうした状況からもわかるように、0〜1歳児の受け入れをどう拡大していくのかが、現在の子育て支援政策の課題だ。幼保無償化は、単に金を出すだけで、子育て支援とはほど遠い政策といえる。

「本来、子育て支援に取り組むなら、保育士の給与や労働時間の短縮といった、処遇改善を進めることが第一です。処遇改善が進むことで、保育士が増えます。保育士が増えれば、保育所の数や受け入れ数が拡大できるのです」(前出・自治体職員)

 誰しも、保育料の負担が軽減されれば嬉しいだろうが、幼保無償化の実態は「無償」とは程遠い。そして幼保無償化で財源が不足すれば、それを増税で賄うしかない。さらなる増税が実施されれば、低所得者層の生活は苦しくなる一方だ。幼稚園・保育所・地方自治体関係者からは、早くも「幼保無償化は天下の大愚策」という声が聞かれるようになっている。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

幼保無償化はまったく「無償化」ではなかった…税金投入で高額所得者優遇の愚策のページです。ビジネスジャーナルは、政治・行政、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!