23日投開票の北海道・函館市長選で、無所属新人の大泉潤氏が初当選を果たした。北海道出身のタレント・大泉洋の実兄で、一部では「弟の知名度を利用している」との批判もあったが、本人はそれを踏まえた上で課題山積の市政改革に挑むようだ。
大泉氏は江別市出身で、早稲田大学法学部卒業後に函館市役所に入り、秘書課長、保健福祉部次長、観光部長、保健福祉部長を歴任してきた。選挙戦は、4期目を目指す現職の工藤寿樹氏との一騎打ちに。大泉氏にとって工藤氏は市役所時代の上司で、異例の「師弟対決」としても注目を集めた。
現職市長との対決となると、新人は普通ならなりふり構っていられない。大泉氏にとって、最大の武器となりそうなのが「弟の知名度」だった。支持者からは大泉洋の応援演説を求める声があったが、大泉氏は「私の選挙と彼の芸能生活は別のもの。応援について話したことはなく、応援を頼む考えもない」とし、実際に大泉洋が応援に入ることはなかった。だが、それでも北海道において「大泉ブランド」は強力で、選挙期間中は「大泉洋のお兄さん」として記念写真の撮影を求める有権者が絶えなかった。
市長選の結果は、大泉氏が9万8,174票を獲得して初当選。工藤氏は2万3,483票で、3選の現職と新人の一騎打ちにおいては極めて異例といえる4倍以上の大差となった。朝日新聞の出口調査によると、立憲民主党支持層の9割以上、自民党支持層の約7割の支持を得たという。新人が党派を超えて圧倒的な支持を受けていたことに対し、ネット上では「大泉洋の知名度で当選した」と揶揄する意見もあった。
当選後、大泉氏は「弟の知名度がなければきょうの勝利はなかった。ありがとうと伝えたい」と話し、弟の人気が選挙情勢に大きく影響したと謙虚に認めた。市役所時代には「洋の兄じゃなかったら部長になれなかったかもしれない」と周囲にこぼしたこともあり、やはり弟の存在は大きい。だが、その一方で「大泉氏の大勝は弟の知名度だけが理由ではない」との意見も強くあるようだ。
函館市は、北海道内の自治体でも最悪のペースで進む人口減少への対策や、新型コロナの影響で大打撃を受けた観光業や経済の立て直しなど問題が山積している。重い「閉塞感」に包まれている中、今回の選挙戦では「現職を選んで現状維持か、新人を選んで大きく変わるか」という選択肢が市民に提示されたといえる。
大泉氏の実力は未知数であるものの、工藤氏の右腕として働いていたという実績はある。子どものころの旅行で魅了されたという函館市への愛も強く、多くの市民がそんな大泉氏による改革に「賭けた」といえそうだ。実際、前回の(2019年)投票率は49.32%で50%を下回っていたが、今回は8.83ポイントアップの58.15%で、市民の関心が高かったことがうかがえる。単に「大泉洋のお兄さんが出馬する」という話題性だけでは、このような数字にはなっていないだろう。
ただ、まったく知名度のない新人が出馬したらこうはいかなかったのも間違いない。やはり、大泉氏が北海道において絶大な人気と知名度を誇る大泉洋の兄だからこそ、決起集会や演説に多くの人が集まり、広く政策を訴えることができたという事実はある。大泉氏の顔立ちや笑顔が大泉洋を彷彿とさせるのも、市民にとって親しみが湧きやすかっただろう。
いずれにしても、大泉氏の肩には市民の大きな期待がかかっている。それだけに「期待はずれ」となってしまった時は反発が大きいとみられ、弟の大泉洋にまでネガティブな影響が波及するおそれもある。今後、どのように問題山積の市政を改革していくのか、大泉氏の手腕に市民の視線が集まる。