そのために、今後ますます求められるのが、笹谷氏が指摘する通り、企業経営者と投資家とのESGにかかわる対話(エンゲージメント)だ。
たとえば、筆者が社外取締役を務めている味の素は昨年11月、シスメックスとともに、2015年度「IR優良企業賞」を受賞した。15年に就任した西井孝明社長が積極的なIRを継続し、投資家との対話を経営に生かしていることなどが主な受賞理由だ。なかでも、企業価値の源泉である概念「ASV(=Ajinomoto Group Shared Value)」と経営戦略に一貫性を持たせた説明を行った点が高く評価された。また、今年の3月「ESG関連取り組み説明会」を初開催し、投資家から好評を博した。
長年CSRランキングを発表してきた東洋経済新報社は、今年8月末に、ESGランキングを初公開した。その中で、味の素は10位にランクインしている。ちなみに、トップ10社の顔触れは以下の通りだ。
1.富士フイルムホールディングス
2.アサヒグループホールディングス
3.リコー
4.NEC
5.ブリヂストン
6.コマツ
7.損保ジャパン日本興亜ホールディングス
8.ホンダ
9.KDDI
10.味の素
もちろん、ESGレーティングが高いからといって、株価が高まる保証はどこにもない。企業価値を高めるには、これらの非財務指標を財務指標に確実に転換する経営力がカギを握る。この点は、次回の本連載記事で、さらに考えてみたい。
(文=名和高司/一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)
●名和高司(なわ・たかし)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして、約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。日本、アジア、アメリカなどを舞台に、多様な業界において、次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。