1990年代には映画になるなど大ブームとなったトイレの花子さん、00年代にはウェブサイトに書き込まれたひきこさんの怪談など、今も昔もさまざまな形で「怪異」が語り継がれている。いつの時代も、怖いもの見たさ、得体の知れないわからなさで、怪異は人の心を惹きつけるものだ。
では、なぜ人は怪異を求めるのか。日本怪異の系譜と変遷など、日本の怪異について解説するのが『日本現代怪異辞典 副読本』(朝里樹著、笠間書院刊)だ。
本書は、怪異のタイプごとに章をわけているところも面白い。第1章では、こっくりさんやエンジェルさまなどの降霊占いの怪を集めた「類似怪異」。第2章では、トイレや学校、乗り物などの「出没場所」。第3章では、刃物や鈍器などの凶器、呪い、憑依といった「使用凶器」。第4章では、「都道府県別怪異」として、日本の各地方の怪異の特色を紹介している。
さて、1980年代から90年代にかけて子どもたちの心を震え上がらせた「トイレの花子さん」。
小学校の3階の女子トイレに入り、奥から3番目のトイレの個室のドアをノックして、「花子さん、遊びましょう」と声を掛けると、中から「はぁい」という答えが返ってきて、時にはドアの向こうからおかっぱの少女が現れる。これがよく知られているトイレの花子さんの怪異だ。
本書によれば、1948年にはこの話の原型が語られ、花子さんは多くの派生怪異を生み出しているという。
実は、「トイレ」という場所は幽霊がたくさん出る場所。男子トイレには「太郎くん」が現れるが、こちらは花子さんとは兄、恋人と関係はさまざま。また、花子さんのライバルとされる「やみ子さん」も登場する。他にも「きぬこさま」「竹竹さん」「ひとみさん」「みち子さん」「ブキミちゃん」などなど、学校のトイレには多くの幽霊たちが現れる場所だというのだ。
この「トイレ」に幽霊が現れるという話は、古くは江戸時代からの伝統のようだ。厠での怪異が記録に残っており、河童が厠の下から手を伸ばして尻を撫でる話や大晦日の夜に厠に行くと「加牟理入道」という入道姿の妖怪が現れ、「加牟理入道ほととぎす」と唱えると消えるといった話があるという。
なぜ、トイレにはこんなにも多くの幽霊が現れるのかについても本書は触れている。それによれば、トイレは無防備な状態になる場所であるというのが理由の一つだという。たった一人、限られた空間で無防備な状態になることが恐怖心を煽るのだろう。
本書を読むと、「こんなに怪異の世界は広いのか」と気づかされる。トイレだけでも怪異だらけだ。そして、日本各地、さまざまな場所で多くの怪異が、その内容も変化しながら語り継がれているのがわかる。
たくさんのイラストも掲載されている本書。怪異人門としても読むことができる一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。