iPhoneやiPadなど「これまでにない製品」を次々に世に送り出し、アップルを時価総額で世界一の企業にまで育てたスティーブ・ジョブズ。56歳の若さで亡くなったのは2011年10月なので、世界に衝撃を与えたあの死から、今月でちょうど4年が経ったことになる。
創業者でありながら1985年にアップルを追放されたジョブズは、その後もCGアニメーションのピクサー(現在はディズニーが所有)やコンピューター会社のNeXTを立ち上げ、97年にアップル復帰後は、Mac OS X、iPod、iTunesなどを矢継ぎ早に発表。「パーソナルコンピューター、アニメーション映画、音楽、電話、タブレットコンピューター、デジタル出版」の6つもの業界に革命を起こした偉大な経営者と評価されている。
20代で独自理論を確立した「知られざる知の巨人」シュンペーター
実は今から100年も前に、ジョブズのような傑出した経営者たちの活躍を「予言」していた経済学者がいる。世界を変えるような卓越した経営者を「企業家」と呼び、そうした一握りの企業家が生み出す「イノベーション」こそが経済発展をもたらすと提唱した。その過程を「創造的破壊」と名付けたこの人物こそ、ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターである。
1883年生まれのシュンペーターは、同じ年に生まれたケインズと並んで「20世紀を代表する経済学者」といわれているものの、具体的にどんな活躍をしたのかはあまり知られていない。「そういえば、世界史か政治経済の授業で習った……かも?」という人がほとんどだろう。
そうした、知られざる「知の巨人」シュンペーターの考え方を、ビジネスの視点から解き明かしたのが『なぜ今、シュンペーターなのか』(秋元征紘/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)だ。同書によると、彼はわずか20代で、上に挙げた「イノベーション」「企業家」「経済発展」などの新しい概念を発表し、まだ電卓さえない時代に、100年後の現代を見通すレベルの独自理論を打ち立てたというのだから驚きである。
ドラッカーが受け継ぎ、ジョブズが具現化した考え方
シュンペーターは、ウィーン大学からドイツのボン大学などを経て、アメリカのハーバード大学へと、学問の最先端というべき名門を渡り歩いた。ハーバードでも、何人ものノーベル賞経済学者を育てたが、その優れた理論は、経営の分野では『マネジメント』『イノベーションと企業家精神』で有名なドラッカーが受け継いで発展させ、ジョブズのような企業家がまさにその理論を具現化している。
実際、市場が成熟してくる一方で人口は減ってきて、普通にモノをつくっても売れない時代になった今、「イノベーション」は会社経営で最も重視される要素の一つになっている。100年という時を経て、ようやく時代が天才経済学者・シュンペーターに追いついてきたといえるのだ。
経済学と聞くと、「何か大きな話で難しそう……」と思う人もいるかもしれないが、シュンペーターの理論は、マクロな話だけではない。「企業家」がどんな特徴を持っているのか、そうした人たちを動機づけるのは何か、といった個人レベルで解釈できる話も数多い。本書自体も、ビジネスの現場で、最終的に読者一人ひとりがどう行動したらいいのか、というところまで落とし込んだ内容となっている。
イノベーションを起こすためには、経営者だけでなく、社員にも「企業家」のマインドが必須だといわれる今。経営者や起業を志す人たちはもちろん、それ以外の多くのビジネスパーソンも、本書で「イノベーションの源流」に触れてみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)