最初に発生した原発部位(がんが発生した臓器)から広がっておらず、限られた狭い範囲にのみある限局性のがんに対し、代替療法のみで治療することを選択した患者では、死亡リスクが高まる可能性があることが新たな研究で報告された。
研究の筆頭著者である米イェール大学医学大学院、イェールがんセンターのスカイラー・ジョンソン氏は「実績のある従来のがん治療の代わりに代替療法を選んだ場合、生存率が低下することを示唆するエビデンスが得られた。がん治療が生存率に及ぼす影響について医師や患者が話し合う際に、この情報を活用してほしい」と話している。
今回の研究は、8月10日付「Journal of the National Cancer Institute」に掲載された。
疑問が残るジョブズ氏の代替医療選択
米アップル社の共同設立者で元CEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズ氏は、代替療法のみでがんを治療する選択をした人物としてもっともよく知られるひとりだ。同氏は結局、代替療法だけで膵臓がんを抑えることができず、従来の医療に頼ることになったが、その時点で治癒の可能性がある段階を過ぎ手遅れになっていたといわれている。
研究著者らによると、がんの代替療法にどの程度の効果があるかを検討した研究は、これまでほとんどなかったという。同センター放射線治療科准教授のジェイムズ・ユー氏は「効果も実績もない代替療法のみを受けた後、がんが進行した状態でわれわれのクリニックを受診する患者があまりにも多いことから、この問題に関心を抱くようになった」と話す。
今回の研究では、米国内のがん患者のデータベースから、限局性の乳がんまたは前立腺がん、肺がん、大腸がんと診断され、代替療法のみを受けることを選択した患者280人を特定。これらの患者とがんの状態や年齢などが同様であり、従来のがん治療(化学療法、外科手術、放射線療法、ホルモン療法など)のみを受けた患者560人を1対2の割合で一致させて比較した。追跡期間は2004年から2013年までとした。
その結果、代替療法のみを受けた患者は、従来のがん治療のみを受けた患者に比べて診断から5年以内に死亡する可能性が2.5倍であることがわかった(ハザード比2.50、95%信頼区間1.88~3.27)。
研究共著者のひとりである同大学教授のキャリー・グロス氏は「がんの代替療法についてわかっていることは少ない。患者は暗闇の中で治療法を選ぶようなものだ。新しい免疫療法にしても高用量ビタミン療法にしても、われわれはどの治療法が有効で、どれが無効なのかをもっとよく理解し、患者が十分な情報に基づいて治療を決定できるようにする必要がある」と述べている。