「ITといえばインド」は、ビジネスの世界では常識だ。ITベンチャーの聖地であるアメリカのシリコンバレーでは、テクノロジー業界の新興企業の約15%のCEO(最高経営責任者)がインド出身だという。
彼らの強みは英語と数学といわれているが、これらの能力はどのように培われるのだろうか。インドの人材に詳しいインド・ビジネス・センター代表の島田卓氏は、次のように語る。
「かつて、インドがイギリスに支配されていた頃、インド人が出世するためには、イギリス人と英語でコミュニケーションをとる必要がありました。インド人の多くが英語を話せるのはその名残であり、彼らは本能的に英語が重要ということをわかっているのです。だから、それなりの生活水準にあるインド人家庭では幼少期から英語をしっかり学ばせます。一方、家族と話す時には公用語であるヒンディー語や居住州の現地語を使うので、結果的にバイリンガルやマルチリンガルの能力を身につけていきます」
インドの教育制度と、その実態
インドの教育システムは、初等教育、中等教育、高等教育に分けられており、それぞれ8年、4年、3年制となっている。このうち、初等教育が義務教育で、進学する場合は、まず2年間の中等学校に進むという。そこで基準の成績をクリアすれば、さらに2年間の上級中等学校に通うことができるというシステムだ。
そして、世界最高峰の理系大学・インド工科大学(IIT)をはじめとした高等教育機関に入るためには、上級中等学校の卒業時に受ける修了試験で合格、各大学が定める基準に達する必要がある。
以上の流れを見る限り、日本の教育制度とそれほど大きな違いはなく、平等に教育を受けられる体制が整っているように思える。しかし、島田氏は「現在の教育制度は、一部の上層の学生だけがいい思いをしている」と語る。
「インドの2011年の国勢調査での識字率は75%となっていますが、これには『名前を言える、書ける』といった程度も含まれています。本当の意味で読み書きができるレベルとなると、5割程度ではないでしょうか。8年間の初等教育が義務であるにもかかわらず、です。インドが誇るIITで、質の高い教育を受けて世界に羽ばたく人間がいる一方、約半数は読み書きすら不十分というのが、インドの教育の実態なのです」(島田氏)