インドの初等教育の就学率は、2015年で97%に達するといわれている。しかし、中には学校に籍を置いてはいるものの、家の手伝いで通学できない子供や、スラム周辺で物乞いをしている子供も多いという。生きていくためには、学校を休むか、最悪の場合は退学せざるを得ない状況なのだ。実際、インドでは初等教育を最後まで受けられない子供は約50%もいるとされている。
確かに、インドの高等教育機関は世界でもトップクラスなのだろう。しかし、高等教育機関への進学率は24%で、世界100位と決して高い数字とはいえない。その24%の中で、さらにIITなどの名門大学を卒業するのは、ほんの数%にすぎない。優秀な人材が多いとされるインドだが、世界的に有名な企業で働くことができるのは、そんな一握りの人材なのである。
そして、そんな狭き門をくぐり抜けてきた彼らが優秀なのは、当たり前のことだともいえる。
日本の教育の限界とは?
では、日本はどうだろうか。
日本では、小学校6年間と中学校3年間の計9年間が義務教育だ。さらに、高校進学率は98%、大学進学率は50%に達する。大半の子供が、小学校から高校まで計12年間の教育を受け、全体の約半数は、その後も4年間の教育を受けているということだ。
それにもかかわらず、日本人が海外の大手企業に引き抜かれ、世界で存在感を示しているという話は、あまり聞かれない。
「日本の場合は初等中等教育が整備されており、全員が一定の知識レベルまで引き上げられています。戦後、日本が短期間でここまで経済成長を遂げられたのは、この教育制度によるところが大きいでしょう。しかし、日本の教育制度は画一的で柔軟性がなく、個性に合わせて教育ルートを変えることはできません。『横並びで、みんな一緒にテープを切る』というのが日本の風潮です。国内で働く分にはなんの問題もないのでしょうが、海外で活躍できるほど特出したスキルや柔軟性は身につきづらい、というのが現実ではないでしょうか」(同)
少数の天才を育てるインドと、多数の秀才を生み出す日本。どちらも一長一短があり、どちらか一方が優れていると簡単に結論を出せるものではない。しかし、インドはいまだに識字率が低く、日本では世界で活躍できるような人材が不足していることは事実だ。
もちろん、両国はそういった問題を放置しているわけではない。インドは識字率100%を達成するために、貧困に苦しむ子供が学校に通えるような支援をしており、日本でも大規模な教育改革が進められている。まだまだ先は長いものの、着実に前に進んでいるのではないだろうか。
(文=日下部貴士/A4studio)