事業を成功させている実業家や一流スポーツ選手、芸術家……。
どんな分野でもトップを走る人の言葉には説得力がある。それは彼らの言葉が「一流同士にだけ通じ合う」というものではなく、私たち皆に通じる普遍性を備えているからだろう。
『たとえば、謙虚に愚直なことを継続するという習慣』(扶桑社刊)の著者でシーラホールディングス会長の杉本宏之氏はまぎれもない「成功者」だが、ここまでの人生は波乱万丈である。不動産業界で起業をするとわずか48カ月で上場。しかし、それから4年後の2009年にリーマンショックのあおりで資金繰りが悪化し、会社は民事再生を受け、杉本氏も自己破産した。
アップダウンの激しいジェットコースターのような実業家人生だが、こうした挫折や失敗の経験は杉本氏の言葉に大きな影響を与えている。
■分からないことを分かるふりをすることは最も愚行である。
私たちはさして知らないことについて、恰好をつけたいための虚栄心から知っているふりをしてしまうことがしばしばある。日常の場面では「分かったふり」が問題になることはほとんどないかもしれないが、ビジネスは別だ。
杉本氏はかつて千葉県内のアウトレットモールを買収したことがある。そのモールは近くにできた別のモールにテナントを奪われ衰退気味だったが、そのぶん32億円と、開発費の4分の1ほどの価格だった。「しっかりと運営すれば立て直せる」と判断した杉本氏は、深く調べることなく買収を決めてしまったという。
結果的にこの買収は大失敗。テナントの流出は止まらず、地域の人口減少もあって客足は遠のくばかり。最終的には行政に無料で明け渡したという。門外漢だったアウトレットモールの運営について、調べたり人に助言を仰いだりしていれば、結果は違ったかもしれない。
「分からないことを分かるふり」をすることは不利益になる。以降「分かるふりをしないこと」を、杉本氏はコミュニケーション面で最も大切にしているという。
■軸足をぶらさない。これが全てに通じる発展の基礎である。
天才ではない「普通の人間」が成長していくために、杉本氏は「軸足をぶらさずやり続けること」が大事だとしている。
経営者であれば、目指すべきものは会社の継続的な成長であって、一時的なブームを作ることでも、短期的な急成長でもない。そして、継続的に成長させるには、事業の目的を見失わないこと。ぶれてはダメなのだ。
軸足をぶらさないと決めてしまえば、さまざまな物事がシンプルになります。何か問題に直面したときに、社員たちも「うちはこういう会社ですから」と共通する判断を下すことができます。(P98より引用)
自分の軸を決めれば、やるべきこととやらなくていいことは自ずと決まる。これは経営に限ったことではないだろう。
■恥ずべき行動ならば、行動するな。
誰にでも「こんなことはしたくない」「こんな人間にはなりたくない」といった「恥ずべき行動」や「恥ずべきこと」がある。
ただし、心では固く決めていても人間はそんなに強くない。「相手によって態度がころころ変わる人間にはなりたくない」と思っていても、実際には弱い相手には強く出て、強い相手には弱腰になってしまう人は多いはずだ。
自分の中の行動指針やポリシーにどれだけ忠実に生きられるか。守らなくても誰に怒られるようなものではない。しかし、自分の哲学を持ち、それを守れる人かどうかは、周囲の人には自然と伝わるものなのかもしれない。
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会社を潰し、400億の負債を抱えながらも再起。これまでに年商100億円以上の企業を7社育てるまでになった杉本氏。本書では、成功だけでなく人一倍挫折を経験しているからこその考え方や行動指針がまとめられている。経営者はもちろん、そうでない人も、自分の生きる態度として取り入れたい言葉が見つかるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。