「アルバイトは従業員であると同時に、大事なお客さまである」
そう語るのは、塚田農場や四十八漁場、わが家などの居酒屋を中心に事業展開するエー・ピーカンパニーの副社長である大久保伸隆氏だ。
大久保氏は、大学卒業後大手不動産会社に就職するが、約1年で退職。エー・ピーカンパニーに入社し、4年で取締役、7年で副社長に。現在は人材開発本部長等を兼任。神戸大学非常勤講師としても活躍している。
そんな大久保氏が執筆した『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』(幻冬舎刊)は、どのようにして従業員の満足度を上げたのか、また、具体的に何をやってリピート率を上げたのか、客と従業員の両方の満足度を高める方法を紹介している。
■2つの「報酬」のバランスを満たす
飲食業界が採用不況の中、塚田農場にはアルバイトが集まるという。そして、アルバイト店員が楽しく、やりがいを持って働くため、辞める人も少ない。
それはなぜなのか? アルバイトが辞めない理由が2つある。それは、「精神的報酬」と「経済的報酬」だ。
この2つがバランスよく満たされることが大事なのだという。
「精神的報酬」とは、仕事での成功体験や一緒に働くスタッフとの一体感、評価や成長実感を指す。精神的報酬のない環境では、がんばる意欲は失われてしまう。反対に、やる気の上がる職場環境が作られれば、人は自発的に伸びていけるものだ。
一方、「経済的報酬」も大切だ。アルバイトはそもそもお金を稼ぐために来ているのだから、希望の金額を稼げるようにシフトを考えるのは店長の仕事。
「世の中お金じゃない」「成長できるから」と、精神的報酬でごまかすようなことをしていたら、アルバイトは辞めてしまう。
アルバイトのやる気を上げて、しっかり稼がせてあげられれば、店も従業員もお互い満足できることになる。
■効率重視、マニュアル指導の弊害とは?
では、働きがいのある環境はどのようにして作ればいいのか。
多くの組織には、効率を重視したマニュアルがあるはずだ。それは一見、効率の良さをもたらすが、長期的に考えるとどうか。
確かに会社が短期的な成果を目指すなら、入ったばかりの従業員にはマニュアルを丸ごと覚えさせ、疑問を抱かせることなく機械的に働いてもらうのが、一番効率がいいのかもしれない。
しかし、エー・ピーカンパニーは、この方法をとっていない。
長期的に見たときに、サービスの質が確実に落ちることがわかっているからだ。人は仕事に慣れると、飽きてしまいやりがいを感じにくくなる。ただのマニュアル教育は、すぐにできるようになっても、働く上で最も大事な「やる気」を奪ってしまうのだ。
そのため、大久保氏はマニュアル指導より、従業員の理想の働き方や強みを探りながら、一人ひとりに合った環境で仕事をしてもらいたいと述べる。
会社の理念や店舗での基本のオペレーションなどを教えた後は、自分で考えてもらう研修に切り換えると、意識の高い従業員は変わり始めたという。従業員が自分の仕事に働きがいを感じて自走する組織が会社の理想の形なのだ。
とくに飲食店の場合、客と接する機会が一番多いのもアルバイト従業員だ。従業員の満足度を上げることでパフォーマンスも上がり、客のリピート率も上がり、売上の向上、安定にもつながる。辞めるアルバイトもいなければ、採用にかかるコストの削減にもなる。
塚田農場のアルバイトはなぜ、自発的に動き、やりがいを持って働いているのか。その秘密を読むことができる1冊だ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。