コミュニケーション能力というと、話す技術や聞く技術ばかりが注目されるが、顔の表情も重要だ。私たちは、相手の顔つきや表情やしぐさを読み取り、言葉にはできない空気を感じることもある。「人は見た目が9割」というが、顔はコミュニケーションの原点とも言える。
では、魅力的な表情をつくるにはどうしたらいいのか。『自分の顔が好きですか?』(山口真美著、岩波書店刊)では、なぜ人は顔が気になるのか、第一印は大切か、顔を覚えるコツはあるのかといった「顔」にまつわるさまざまな疑問を心理学で解き明かす一冊だ。
■笑顔は「社会的な報酬」である
本書によれば、特に大切なのが「笑顔」だという。たくさんの人が並んでいる中で、笑顔は目に付きやすく、記憶されやすいと言われている。これには脳の働きが関係している。
笑顔は脳にとって報酬として働く。笑顔と名前との記憶には、金銭的な報酬をもらうときに活動する前頭葉にある眼窩前頭皮質が、記憶に関わる海馬とともに働くのだ。
笑顔が報酬となるのは、人の最大の特徴とも言える。動物に芸を教えこむときのご褒美はえさとなるが、人では違う。人間もご褒美にごちそうしてもらうこともあるが、その目的はごちそうよりも、周りにほめられることだろう。
ほめられることが最高のご褒美で、笑顔はその延長なのだ。これは「社会的な報酬」と呼ばれている。
■日本と欧米で違う「笑顔」を作るべきタイミング
また、文化によっても表情は異なる。欧米と日本とでは、表情をどう表出すべきかのルールが違うというのだ。
例えば、プレゼントをもらったときやテストで良い成績を収めたとき、ポジティブな感情は大げさに表現するように欧米では求められる。
一方、日本では自分だけが得したことを大っぴらに表現することを控える。周りの目を気にして、喜びを大げさに表現することを控える日本人の行動は、欧米では不審に思われてしまうことすらあるという。
■欧米人は顔全体を見て、日本人は目を見る
ふるまいの違いだけでなく、相手の表情を見るとき、顔のどこに注目するかが、文化によって異なることもわかっている。
相手の表情を読み取るとき、欧米人は顔をくまなく見るが、日本人は相手の目に注目するそうだ。
これには、表情のつくり方の違いが影響している。欧米人の表情は口角をしっかりと上に挙げて大きく喜びを表現する。対して、日本人はにっこりと自然な表情をつくり出す。
日本人の表情は、欧米人に比べると動きが小さく、その小さな変化を読み取るように、目に注目するのだ。文化による見方の違いは、1歳未満の小さい頃から始まっていることもわかっている。
本当は機嫌かいいのか、悪いのか。どう思っているのか。コミュニケーションは、話しながらも相手の表情をうかがうものだ。もちろん相手もこちらの表情を見ているだろう。そのとき、笑顔でいるのと仏頂面でいるのでは、相手に与える印象も大きく変わる。言葉だけでなく、顔の表情でも自分を表現していて、意思を相手に伝えていることを忘れてはいけない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。