接客に関わったことがある人なら、「お客への気づかい」や「心づかい」の大切さについて、経営者や上司、または店長といった立場の人から教わったことがあるのではないか。
しかし、「心づかい」も「気づかい」も、理解して実践するのは難しい。それはスキルでもノウハウでもなく、マニュアル的な対応とは根本的に違うものだからだ。
JALのキャビンアテンダント(以下CA)として30年のキャリアを持ち、その経験から得たおもてなしの心を伝える江上いずみさんによると、心づかいとは「こちらから働きかけるもの」。
つまり、相手から要求されたことをこなすのが「対応」だとしたら、自分から相手の欲しているものや考えていることを想像し、応える努力をすることが「心づかい」なのだ。
■携帯をなくした人の「本当の困り事」
「心づかい」について、まだピンと来ない人のために、江上さんの著書『JALファーストクラスのチーフCAを務めた「おもてなし達人」が教える “心づかい”の極意』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)からこんな例を紹介しよう。
「機内に携帯を忘れてしまったんです!」
飛行機から降りたお客が、忘れ物にあせって窓口に駆け込んできた時、応対する側としてはつい「何便でしたか? お座席は何番でいらっしゃいましたか?」と、お客の「言葉」だけを捉えて反応しがちだ。
しかし、これは「対応」であり「心づかい」ではない。こうした時、JALでは「さぞお困りかと存じます。このあとのお仕事やお約束、お待ち合わせの時間などは大丈夫ですか?」と、まずは相手をいたわる言葉をかけるようにしていると江上さんは述べている。。
そのうえで「ご連絡が必要なところがございましたら、どうぞこちらの電話をお使いになってください」と、連絡手段があることを伝える。もちろん、便名と座席を確認してお客の携帯を探す手配も直ちに行う。
「携帯を忘れた」と焦る人の困り事は「携帯がない」ことではなく「必要な連絡ができない」ことかもしれない。お客の言葉だけを捉えるのではなく、その言葉から相手の気持ちと、相手が本当に欲していることに思いを巡らせるのが「心づかい」なのだ。
■「もう1枚毛布が欲しい」に対する一流の心くばり
上の事例が理解できたなら、次の事例は簡単かもしれない。
フライト中、あるお客が肩まで毛布をかぶり、青白い顔で震えていた。そして、ついには「もう1枚毛布をください」とリクエストしてきたとしたら、CAはどうするべきだろう。
リクエスト通りに追加の毛布を持っていくことはもちろんだが、それだけでは失格。これではお客に頼まれたことに対応しただけで、そのお客が本当に求めているもの、つまり「どうすれば寒さに震えるお客を楽にすることができるか」について頭を働かせていないからである。
この場合、正解は複数あるはずだが、お腹の中から温めたほうが寒さも和らぐだろう」と想像して、毛布を渡す時に「ご一緒に、なにか温かいお飲物はいかがですか?」と声をかけるのも一つの方法だろう。ここまでできて初めて一人前のCAといえるのだ。
■ある経営者に対するCAのスゴすぎる心づかい
最後に、上級者向けの事例を紹介しておこう。