毎日のようにニュースをにぎわす、パワハラ、セクハラ、SNSのトラブル、軽い法律違反、不倫など。その中には、一昔前なら「これくらい」と考えられていたことも少なくありません。
ますますコンプライアンスが厳しくなる時代に、いまは何がアウトで何がセーフなのかわからないという人は多いはず。そんな時は、法的な視点を持っておくと、意図せず加害者になってしまうことからあなたを守り、被害者になったときに自分自身の権利を回復するための切り札となります。
『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』 (アスコム刊)は、元フジテレビアナウンサーで、今は弁護士として活躍する菊間千乃先生が、難解なイメージがある法律を、日常に引きつけた形で解説する一冊です。
■「新人が余興」はパワハラか?
同書では、「難しい法律の問題を、いかに簡単に、楽しく理解してもらうかを重視した」(アスコム編集部)というように、だれもが「やってしまいがち」な86個の事例を、イラスト入りで自分ごと化できるように紹介しています。
たとえば、歓迎会や忘年会のときに、新人が「余興」をすることが恒例になっていたりしませんか? これ、内容によってはパワハラ認定されるかもしれません。
同書によれば、実際にある会社で、営業目的を達成できなかった社員に対し、研修会を盛り上げるために特定のコスチュームを着用させ、後日、裁判にまで発展した例があるそうです。そして裁判所は、社会通念上正当な職務行為とはいえないとし、会社に対して22万円の賠償を命じる判決を下しています。
このケースで注目したいのは、当該社員はコスチュームの着用を明確に拒否してはいなかったという点です。
しかし裁判所は、部下という立場からすると、「拒否することは非常に困難であった」という認定をしました。
これは「本人たちも楽しそうにしていた」という言い訳は通用しないということです。
命じられる立場の若い方は、「この命令はパワハラかもしれない」と知っておくことで、心のお守りにできるのではないでしょうか。
他にも、事例の一部を紹介しましょう。
・部下の指導で、机を叩いたり、椅子を蹴ったりしたら?
→状況次第では暴行罪に!
・「やらせ口コミ」の バイトで悪評を流したら?
→信用毀損罪・偽計業務妨害罪に問われる可能性あり!
・スーパーなどで無料のものを大量に持ち帰ったら?
→窃盗罪に該当する可能性あり!
・お釣りを多くもらって申告しなければ?
→詐欺罪や占有離脱物横領罪に問われる可能性あり!
もちろん、必ずしも書かれたような結果になるとは限りません。ただ、「法律的にはこういう結果になりかねない」ということを知っておくだけで、行動を変えるきっかけになるはずです。
■指導かパワハラかを分ける6類型。迷ったときは「相手の尊厳」を判断基準に
同書では、「やってしまいがち」な犯罪や不法行為、コンプライアンス違反に対する基本的な考え方も記しています。
たとえば、「どこまでが指導で、どこからがパワハラなのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。
同書では、パワハラの類型として、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つを解説されています。
では、6つに当てはまるか微妙な場合は? 著者の菊間先生はこう書きます。
そんなときは原則に戻ってください。相手の尊厳を傷つけるような言動になっているかどうか、と。
これはやられた側にとっても、相手(上司や先輩など)が感情的に攻撃してきているだけなのか、成長の為の指導なのかという判断基準になりますね。
■誰もが加害者・被害者になりうるSNS。示された新たな指針とは?
また昨今、誰もが加害者、被害者になりやすいのがSNSです。テレビ番組出演をきっかけにSNSで誹謗中傷にさらされていた女性が命を絶ってしまうなど、痛ましい事件も起きてしまいました。
にもかかわらず、現在の日本の法制度では、発信者を特定するまでに時間や費用がかかるため、言われた方は泣き寝入りをすることがほとんどなのだそう。
そんな現状に対して、同書では、SNSに対する総務省の新しい動きを紹介しています。インターネット上で誹謗中傷を受けた被害者はSNSの運営会社などに投稿者情報を請求できます。総務省は、この投稿者情報に、電話番号を追加するなどの省令を改正する方針を示したのです。
電話番号が判明すれば、携帯電話会社に直接投稿者の情報を照会することで、発信者にたどり着くことが容易になり、加害者に対して損害賠償を請求しやすくなります。
こうした知識があれば、つい感情的な内容をSNSに書き込んでしまいそうになったときに、抑止力になるでしょう。
もちろん、被害者になった時は、顔の見えない相手に対する対抗手段となります。
■大切なのは、法律の知識を行動に移すこと
同書の中で菊間先生は、日常の中に法律の視点を持つこと、そして、得た知識を行動に反映させることが大切だと書いています。
私が尊敬する作家の故・外山滋比古さんは、知識は過去、思考こそが新しいものを作る力であり、自分で考える力が大切だと常々おっしゃっていました。特にこのコロナ禍においては、自分の頭で考え、行動することが大切だなと思うことがたくさんありました。得た知識をそのままにとどめずに、なぜこんな規制があるのだろう、この規制があるということは、こういう場合はどうなんだろう? と思考をめぐらせて頂ければ、幸いです。
法律視点とは、法律の知識を得て、思考をめぐらし、行動に移すこと。それは、いまを生きる社会人に必須のスキルと言えそうです。その手引きとなる同書は、あなたと、あなたの大切な家族を守る一冊になるのではないでしょうか。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。