味方がいれば、自分の企画や提案を支援してもらえる。敵になりそうな人がわかれば、自分の企画や提案に反対してくることを事前に無効化することができる。 たとえば、自分の立場では敵対する人の意見を変えることは難しくても、その上司を動かせられれば、そのお墨付きで反対意見を封じることもできるわけだ。
生々しい戦術ではあるが、その徹底した方法論が「鬼谷子」の真骨頂であり、実践的である所以なのである。
■会話は「反覆」せよ!
では、どうすれば「量権」と「揣情(しじょう)」を明らかにすることができるか?
「鬼谷子」の原理で重要なのが「反覆」という考え方だ。これは現代語としての「反覆(くつがえすこと、ひっくりかえすこと)」とは少々意味が異なる。「何事もこちらからの働きかけ(反)とフィードバック(覆)の中で明らかになっていく」という意味だ。
会話の中で、こちらから「反」の言葉を投げかければ、相手からは「覆」としてそれに応じた言葉が返ってくる。そのくり返しの中で、相手の目的や狙い、基本的なスタンスを探る。「鬼谷子」ではこれを「象比の術」という。
「象比の術」には3つのポイントがある。
1.相手の言葉に同調して、目的や狙いがうかがえるような言葉を引き出す。
2上手く引き出せないときは、相手が話しやすくなるような言葉を「反」として投げかける。
3.目的や狙いがうかがえる言葉を引き出したら、それをやりとりの中で深めていく。
たとえば、自分の味方か敵かを明らかにしたい(揣情)ときは次のようなやりとりをすれば、相手の真意を探っていけるだろう。
自分:「ウチの会社って、やっぱり無難な企画しか通らないのかな?」
相手:「うーん、そういうところはあるよね」
自分:「ありますか」(同調)
相手:「あると思うなあ、僕は」
自分:「あるんですねえ。やっぱり無難が一番なんですかね」(同調&反)
相手:「それだけっていうのも、どうかと思うけどね」
同調と反をやりとりの中に忍ばせれば、相手は自分の中に持っていた(陰におさめていた)目的や狙い、基本的なスタンスを明らか(陽)にし始める。
この会話であれば「それだけっていうのも、どうかと思う」という言葉からは、さらに秘められた「陰」があることがうかがえる。それを「反覆」によってさらに掘り下げていくのだ。
そうやって個々の相手を探り、情勢を知っていけば、誰を動かしていくのがベストなのかが見えてくる。
ここで紹介したのは、あくまで「鬼谷子」の初歩の初歩にすぎない。
本書では、より強力な会話法「飛箝(ひかん)の術」や、相手を動かす「揣摩の術」など、さまざまな技術が解説されている。