少子化、高齢化が進み、人口減社会への対応を迫られている日本。
この社会構造の変化がどのような影響をもたらすかはいまだ計り知れていない部分が多いが、現在の日本のインフラの多くは「人口増」を前提としたものであり、これらが人口減によって「身の丈」に合わなくなってくる可能性は高い。
その一つが「水インフラ」である。『日本政策投資銀行 Business Research 水道事業の経営改革――広域化と官民連携(PPP/PFI)の進化形』(日本政策投資銀行 地域企画部編著、地下誠二監修、ダイヤモンド社刊)によると、日本の水道事業は今、複数の問題に直面している。そして、それらの問題の源泉として「人口減」は深く影を落としているようだ。
■人口減が水道事業を直撃する!多すぎる事業者と少ない料金収入のアンバランスを是正せよ
単純な問題として、人口が減っていけば水の需要も減る。収入源が上下水道の利用料である以上、事業者にとって人口減はそのまま収入減に直結するのだ。
また、水道事業者の技術系職員の年齢を見ると、50代が約4割。そして20代の若い世代は全体の約1割にとどまっている。水道管の接合や、漏水防止工事など、水道事業には高い技術が必要な職種が多い。これらの技術の継承も、今後困難になることが予想される。
とはいえ、人口減によって需要が減少することや、少子高齢化によって技術やノウハウの継承が難しくなることはどの業界でも起こりうること。水道業者に特有の問題は他にある。
その一つが、事業者があまりにも多すぎることだ。日本の水道事業は原則として市町村が経営しているため、全国で1344もの水道事業者(簡易水道事業も含めると2081事業)が存在する。
これは、電力(10電力)やガス(206事業者)と比べると圧倒的な多さだが、それでいて料金収入は最も低く、年間で約2兆7,000億円(2015年)。これでは、必然的に経営が立ちゆかなくなる事業者が出てくる。
特に、水道事業は現状、料金設定から事業運営、設備投資に至るまでのすべてを市町村単位で完結しなければならない。水道設備の建設・維持管理にかかる費用を大幅に切り詰めることは難しく、水道料を上げるにも限度がある。
このことが示すものは何か。
「人口規模の小さい自治体ほど水道事業の経営が困難になる」ということである。
本書によると、給水人口が5万人を割ると、自治体は料金収入だけでは水道事業を維持できなくなり、一般会計からの負担金等で赤字を補填する傾向にあることがわかっているという。「事業を維持できるかは人口頼み」というのが今の水道インフラの構造的な問題なのだ。
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となると、人口減社会の水道事業を考える際に、「事業者の再編」は大きなテーマとなる。具体的には自治体単位ではなく、人口過疎地域も過密地域も含めた広域を担う事業者を編成していくことが、今後日本で水道事業を効率的に維持していくために必要となるわけだ。
本書では、海外の事例などを参考に、水道事業の広域化に必要な法整備や課題、運営面での方策を解説していく。
どの地域もどんな人も無関係とはいかない水インフラ。未来の日本や未来の私たちの生活がどのようなものになるか。本書が示すものは重い。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。