論理的に考える力を身に付けたいと思っている人は多いはず。ところが、急に「ロジカルに」と意識してもなかなかそう考えられるようにはならない。
論理的思考力は「癖」のようなものなのかもしれない。とことん考えて自分の頭に染み込ませる必要がありそうだ。
そこで役立つ一冊がパズル作家の北村良子氏が執筆した『論理的思考力を鍛える33の思考実験』(彩図社刊)である。
本書では33の思考実験が用意されている。その一つが「暴走トロッコ問題」だ。
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が「正義」をテーマにした講義の中で提示したことでも有名である。
暴走したトロッコが5人の作業員に向かって突き進んでおり、もし自分がすぐ近くにある分岐器の切り替えスイッチを作動すれば、5人は助かる。しかしそうなると、切り替え先の進路にいる作業員1人が犠牲になってしまう。どちらを選択すべきか。
本書によれば、この問題に対する解答は統計が取られており、85%の人がスイッチを切り替えると答えている。
5人を助け、1人を犠牲にするという、単純な数としての思考が働くとこの結果になるのは当然だ。
興味深いのは、少々残酷ともいえる派生問題である。
同じように5人の作業員に向かってトロッコが猛スピードで突き進んでいる。それを橋の上から見ている自分の隣に、かなり大柄な男性がいる。彼を橋から線路上に落とせば5人は助かる。彼を橋から落とし5人を助けるか? それともそのまま5人が犠牲になるのを見るのか?(起こした行動によって罪は問われない)
自分が行動を起こせば、1人が犠牲になってしまうものの、5人を助けられる。しかし、この問題に対する回答の比率は最初の問題と逆転する。75%~90%ほどが「そのまま静観している」と答えたという。
この回答、「より多くの人を助ける」という目的からいえば、合理的な判断とはいえない。
しかし、自分が「突き落とす」という直接的な行為が発生することにより、強い抵抗が生まれ、5人を犠牲にするという意志決定が下される。もし、「大柄な男が誤って落下する」ということであれば、比率は最初の問題と変わらないだろうと北村氏は述べる。
出版当初から話題を呼び、このほどオーディオブック化もなされた本書。
本を読みながら考えてもいいし、音声で聴きながら考えてみてもいい。(目と耳でもしかしたら異なる結論に至るかも?)そうやってロジカルに考える癖が身に付くのだ。
(文:MTK)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。