元国税局職員、さんきゅう倉田です。死ぬ前にやってみたいギャンブルは「結婚」です。
税務署では、さまざまな業種に対して税務調査を行いますが、一般の方に耳馴染みがあっても、事業者全体からみて数が少ない場合、税務調査で滅多に遭遇しない業種があります。そのひとつに「ギャンブラー」があります。
調査官が、準備調査の段階で確認すると、確定申告書の職業欄に「ギャンブラー」とあるだけで、どういったタイプのギャンブルなのか、あるいは本当にギャンブラーなのかは判別できませんでした。職業欄に「ギャンブラー」と書く納税者はほとんどいません。ギャンブルで得た利益を申告する人が少なく、そもそも確定申告自体を要しないと考えている人が多いのが実情です。
調査対象者は、顧問税理士もおらず、収入も2000万円ほどでした。調査を行いたい旨の電話連絡をして、1週間後に自宅に臨場しました。
調査対象者に話を聞くと、パチンコとパチスロで収入を得て生活しているとのことでした。一般的に、パチンコでの収入は一時所得に該当すると考えられます。
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得とされています。
会社員の給与所得や、個人事業者の事業所得とは異なるわけです。しかし、パチンコでの収入で生活し、生活のために営利を目的として継続的にパチンコを行っているのであれば、事業所得として認められる可能性があります。今回の税務調査では、一時所得になるか事業所得になるかという最高裁判所で争われそうなデリケートな問題に触れられることはなく、事業所得と認めた上で、その経費や売上について調査が行われました。
所得税法基本通達36-1には、「『収入金額とすべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」(抜粋)とあります。つまり、パチンコによる収入が適法であるかそうでないかという、日本の法律の歪んだ部分について税法がとやかくいうことはなく、「所得があれば、とりあえず課税しますよ」となっています。これは、パチンコだけでなく、万引き、オレオレ詐欺、覚醒剤の販売、武器の密輸、コインチェックへのハッキングなど、違法な手段によって得た所得についても同様です。
ギャンブラーの逆転勝利!
さて、調査対象者は、ギャンブルを生業としているとは思えないほど、とても真面目に記帳していました。青色申告の要件を満たすような帳簿の作成はなかったものの、毎日の換金金額、投入金額、出玉数、入店時間、退店時間、台の種類、台の番号、店舗を記録し、継続的な利益を得られるような独自の分析を行っていました。調査で問題にあったのは、貯玉の取扱いです。
調査対象者が作成した記録を確認すると、一日の出玉数と収入金額に乖離がありました。調査対象者は、出玉をその日の終わりにすべて換金しているわけではなく、カードに貯玉し、それを翌日以降に持ち越すことが多々あったのです。例えば、10万円分の出玉があったとしても、翌日にまた打つのだから、8万円分だけ換金し、残りは翌日使うということが多々あったわけです。
これについて調査官は、本来は収入として計上すべきところを除外して、恣意的に所得金額を調整していると主張しましたが、調査対象者は、貯玉が増えたことは、速やかに所得の増加とはならない、株式で言う「含み益」と同じだと主張しました。
これについては、調査官も未熟だったのだと思います。日々の貯玉に関しては、争うことなく、12月31日時点での貯玉に関して指摘するのが正しいはずです。年末に棚卸しの在庫となっている貯玉分を、その年の収入とすべきかどうかについては争う余地があるからです。
調査対象者は、毅然とした態度で自らの考えを変えることなく粘り強く調査官を説得。その結果、調査官は持ち帰って上司と相談することにしました。現在のパチンコの「三店方式」を鑑みると、パチンコ玉をカードに替え、そのカードをパチンコ店の外にある別の店舗で売却する方式では、換金していない貯玉は、棚卸資産になる可能性があります。
結局この調査では、調査対象者の主張が認められ、申告是認となりました。論拠を持って、自らの考えをはっきりと伝えれば、税法の知識がなくとも税務調査に勝てることもあるという事例です。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)