今年もすでに数ヶ月経ちましたが、皆さんのようなビジネスパーソンには、今年の抱負として「外国語をマスターする」という内容を掲げた方も多いのではないでしょうか。実は、外国語を勉強することは、趣味や仕事に役立つ以外にも、脳にとってもたくさんのメリットがあるのです。
まず米ペンシルベニア大学のピン・リーらの研究では、外国語を学ぶことで脳が構造的に変化し、機能を向上させたり、老化を遅らせることができると報告されています。つまり、大人になってからも脳の成長を促進できる、老化までも防げるという効果があるそうですから驚きです。
また、スウェーデンにあるルンド大学のマルテンソンらによる研究によると、13カ月間、朝から晩まで言語以外の勉強をさせたグループと、アラビア語やロシア語などの外国語を勉強させたグループでは、言語を勉強したグループにのみ、海馬と大脳皮質の発達が見られたのです。つまり、言語を勉強したグループの脳が成長した、という報告があるのです。
また、エジンバラ大学のバグらの研究チームは、外国語を学んだ人と、そうでない人で、学力や記憶力、認知症の発症率などに差があるかどうかを長期にわたって調べました。この研究では、被験者たちに一般的な知能テスト、記憶力、情報処理の速さ、語彙力、読解力などさまざまなテストを行わせるのですが、これを「被験者たちが11歳のとき」、そして、それから長時間がたった「被験者たちが61歳~63歳のとき」にテストを受けさせて比較しました。
その結果として、複数の言語を操る人ほど明らかに高いパフォーマンスを示したのです! さらに、2言語操れる人よりも、3言語を操れる人のほうがいい結果を出していたといいます。この研究では、性差、社会経済的地位、移住経験など考えられるさまざまな他の要因も検討しましたが、これらの要因を考慮してもなお、このテスト結果は「言語が要因としか考えられない」との結論が出されています。
ポジティブなサイクル
言語を勉強することで脳が得られるメリットはこれだけにとどまりません。たとえば、バイリンガルはマルチタスクに優れ、多面的に物事を考えることに長けているといいます。そのため、母語以外の言語を話せるようになると、外国語で仕事ができるというメリット以外にも、マルチタスクが得意になり、仕事自体の効率も向上します。外国語の学習によって、外国語が話せるようになる以外にも仕事の効率も良くなるなんてまさに一石二鳥ですね!
また、2言語を操るバイリンガルはそれぞれの言語を話すときに、脳の違う回路を使うため、脳に2つの回路を有しているといわれています。イタリアのウーディネ大学のファブロ氏によれば、バイリンガルの失語症患者の3割程度は言葉を失わないそうです。つまり、1つの言語の回路を失っても、もう1つの言語の回路が残っているため、言語をすべて失わずに済んでいるのかもしれません。
たとえば、日本語と英語を操れる場合、仮に日本語を操る脳が病気や怪我などにより失われても、英語を操る脳が健在であれば、言葉を話す機能を失わずに済むわけです。複数の言語を勉強しておくことは、将来の自分への保険になるわけですね。このように外国語の学習は脳にポジティブな影響をあたえるのです。
さらに仕事やプライベートでも、違う言語が理解できる、話をして通じたという達成感は脳に報酬系ホルモンであるドーパミンを放出させ、喜びを与えてくれます。すると脳はその報酬を再び得ようとするので、また学習がはかどるというポジティブなサイクルが出来上がります。
思い立ったが吉日。今日からでも外国語を学習し、自分自身にとっても脳にとってもハッピーな毎日、そして未来にしていきましょう!
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)