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菊原智明「ワンランク上のビジネスパーソンを目指す!」

トップ営業マンになった私が、調子にのった後に味わった地獄

文=菊原智明/営業サポート・コンサルティング代表取締役
トップ営業マンになった私が、調子にのった後に味わった地獄の画像1「Thinkstock」より

 私はハウスメーカーの営業マンとして長い間、ダメ営業マンとして過ごしてきた。見込み客に対して訪問したり、電話をかけたりしても相手にされない。お客様から「勝手に電話してくるな!」と怒鳴られるのもこたえるが、冷静に「迷惑なので連絡しないでもらえますか」と言われるのもダメージが残ったものだ。

 お客様からの風当たりも強いが、さらにキツイかったのは上司からのプレッシャーだ。営業会議ではもちろん、朝から罵声を浴びせられることも。本当に惨めなものだった。

 そんななか、突然の神が舞い降りることがあった。四半期決算が終わり、新たな期がスタートした時のこと。たまたま接客したお客様が突然「お宅の会社で決めようと思っています」と言い出した。私が説明したからではなく、お客様のほうで勝手に調べて当社の建物の構造が気に入ったという。しかも2世帯住宅で請負金額も大きい。これ以上のチャンスはない。慎重に商談を進め無事にご契約を頂いた。

トップ営業マンになった私が、調子にのった後に味わった地獄の画像2『超一流の営業マンが見えないところで続けている50の習慣』(菊原智明/青春出版社)

 思いもよらない大型物件の契約だ。これでしばらく契約を取らなくても会社から怒られることはない。その余裕がほかのお客様に“いい空気感”として伝わったのか、次々に見込み客が増えていく。目の前のお客様の商談を一つひとつ丁寧に取り組んだ結果、たったひと月で3カ月分のノルマを達成してしまったのだ。

 そんなことはめったにない。喜びながらも「この契約はラッキーでしかない。調子にのらないようにしよう」と十分注意していた。というのも、過去に“調子にのって没落した人”をたくさん見てきたからだ。

 先輩Aさんはトップを取った後、上からものを言う人に変わり嫌われ者に。その翌年、みんなから総スカン状態になり、見るも無残な結果に終わった。また後輩B君は結果を出し天狗になり、周りを敵に回した。その半年後、ひっそりと会社を去っていった。

 結果を出して嫌な人に変わっていく醜態を見て、「仮に自分が結果を出してもああなってはならない」と強く心に刻んでいたつもりだった。

好調な時期はあっという間に過ぎ去り……

 しかし、いざ自分が結果を出すとそうはいられない。営業会社は現金なもので、契約を取ったとたん手のひらを返したように態度が変わる。今まで虫けら扱いされていた上司から「菊原君はやると思っていたんだ。ありがとう」などと言われるようになる。周りのスタッフからも“売れる営業マン”として大切に扱われるようになった。すでにこの時点で没落への兆候が出始めていた。

 はじめのうちこそ気をつけていたものの、周りから評価されるに従いだんだん勘違いしてくる。契約物件の打合せが多くなり、時間に追われていた。スタッフに対して「この仕事(=無理な依頼)、明日までにやっておいて」などと横柄な態度を取るようになっていた。気づけば感謝を忘れ、命令口調で仕事を依頼する嫌な奴になってしまったのだ。さらには飲み会で調子にのり、「営業が契約を取ってくるからみんなの給料が払えるんだ」などと口走ったこともある。

 こうなれば最後。地獄に落ちるのも時間の問題だった。このまま好調時が続けばいいが、世の中はそう甘くはない。好調な時期はあっという間に過ぎ去り、すぐに元のダメな自分に戻ってしまった。

 元の状態に戻るだけならまだいい。お客様から相手にされなくなり、契約どころか商談のチャンスさえもらえないのはもちろん、さらには契約を頂いたお客様ともトラブルになった。

 まさに地獄状態。スタッフに助けを求めたが、好調時に横柄な態度を取っていたため、誰も助けてはくれない。自業自得である。もちろん上司も助けてくれるわけもなく、「まあ、そんなザマだと思ったよ。期待した俺がバカだった」ととどめを刺された。

 それ以降はそうならないように気をつけたものの、同じような失敗を2度ほどくりかえした。私自身、“感謝の気持ちを忘れたら地獄に落ちる”ということを本当の意味で理解するまでにずいぶん時間がかかったものだ。

トップ営業マンがひっそりやっていること

 ここであなたにぜひ知ってほしいのは、

「うまくいき始めた時から、すでに没落する兆候が出始めている」

ということ。この事実を知っているだけでも立ち居振る舞いが違ってくる。このことは多くのトップ営業マンが経験している。ごく稀に入社当時からトップ営業マンでそのままずっと好調な人もいるが、そんなのは100人、いや1000人に1人いるかいないか。やはりトップ営業マンもまた、調子にのり地獄を見ている。

 今まで多くのトップ営業マンにお会いしてきたが、99%の人は案の定イタイ目にあっていた。その経験から“結果を出した時こそ謙虚になる”ということを体感的に学び、その後の教訓としている。

 あるトップ営業マンは「無理な依頼をした時は、必ず直接電話でお礼を言う」といった行動をし、別のトップ営業マンは「日ごろから感謝をかたちにして伝える」といったことを心掛けている。

 思いもよらない結果を出してしまうと思わず調子にのってしまうもの。そんな時こそ今まで以上に周りの人たちに感謝する。こういった行動をとれる人だけが、結果を出し続けることができるのだ。
(文=菊原智明/営業サポート・コンサルティング代表取締役)

・参考文献
超一流の営業マンが見えないところで続けている50の習慣

菊原智明/営業コンサルタント

菊原智明/営業コンサルタント

関東学園大学 経済学部講師、社団法人 営業人材教育協会理事。
7年間ダメ営業マン時代を過ごしたのち「営業レター【リモート営業】」をきっかけに4年連続トップ営業マンとなる。2006年にコンサルタントとして独立。現在は、経営者や営業マン向けのセミナー、研修、コンサルティング業務を行う。2023年までに約78冊の営業の本を出版。ベストセラー、海外翻訳多数。
営業サポート・コンサルティング 公式HP

Twitter:@kikuhara

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