「むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました」
昔話でお馴染みのこのフレーズですが、数ある昔話のなかで、お爺さんやお婆さんが活躍する話がとても多いのを不思議に思ったことはありませんか?
大塚ひかりさんの『昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』(草思社刊)は、そんな昔話に登場するお爺さんやお婆さんについて、当時の社会事情や思想などから考察した一冊です。
当時の老人は「社会のお荷物」として扱われていました。
健康な老人は、尊敬・愛着の対象となるものの、心身の衰えや老衰・痴呆などの症状が現れ始めると、冷たくあしらわれる状況があったようです。
また、家族の中で迫害される話も多く、舌切り雀(スズメ)の源流となっている「雀報恩事」では、雀を助けた優しいお婆さんが、家族から「お婆さんはもうろくして雀を飼っていなさる」と“憎み笑い”される場面も出て来るというから驚きです。
また、歳をとっても仕事を続ける者が多く、「かぐや姫」に登場したお爺さんは竹を刈ることを仕事にしていましたし、「桃太郎」のお爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんも川へ洗濯に行っています。
著者である大塚さんは、昔話の老人が働きものである理由として、昔の老人が現代人が考える以上に元気だったこと、死ぬまで働き続けなければ生活できない実態があったことを挙げています。
江戸時代に入っても救貧についての全国的な施策はなく、貧困に加えて社会からの迫害もあるのですから、当時の人々の老後の不安は、現代人よりもかなり大きなものだったでしょう。
そのため、お爺さんやお婆さんが棚からぼた餅のように幸福になる話は、多くの人々に夢を与えました。
本書には他にも、『昔話の老人は、なぜ「子がいない」のか』や、『なぜ鬼爺とは言わず「鬼婆」と言うのか』など、言われてみれば確かに気になる昔話の疑問について書かれています。
ほのぼのとした昔ばなしに潜む毒を、大人になった今こそ見返してみてはいかがでしょうか。(文:ハチマル)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。