自分の正しさを証明することにこだわる
東大女子と東大男子の両方を部下にもつという金融大手の管理職に話を聞いた。岡部太郎さん(仮名)、40代半ば、東大出身ではない。
「東大生は、もちろん理解力が高い。明示的に出された課題の解決に関しては圧倒的な強みがある。しかし、一般企業において、ひととひととが有機的に結びつく組織の中で円滑に仕事を進めるためには、気遣いというか、機転というか、対人的反射神経がものをいう場面が多い。その能力においては、東大出身者は入社の時点で他大出身者よりも後れをとっている印象がある」
「対人的反射神経」とは、おそらくノンバーバル(非言語)なコミュニケーション能力であろう。言語で明示的に指示を与えられるのではなく、まわりのひとたちの表情・しぐさ・口調・ムードから次に自分がとるべき言動を判断する能力だ。
東大生が「共感」や「感情」という非言語的要素より「概念」や「理屈」という言語的要素に反応しやすいとしたら、相対的にノンバーバルコミュニケーションが苦手だと思われても仕方がないかもしれない。
「それでも東大男子は、男社会でもまれ、その中で鍛えられる。その点、東大女子は不利。もまれる機会が少ないからです。それが成長の差になってしまう」
岡部さんが勤めるのは男社会の権化のような極めて日本的な大企業。正社員には、いわゆる「普通の総合職」と「条件付き総合職」の2種類がある。条件付き総合職のほとんどは女性で、その中に早稲田や慶應出身の女性はいるが、東大女子は1人もいない。東大女子は100%普通の総合職。普通の総合職の男女比率は20:1。
世間では男女共同参画や女性の活躍といわれていても、企業の体質は完全なる男社会で変わらない。その中で、若手男子社員は男社会のルールに自然に適応し、少々手荒い指導も受けながら急速に成長していくが、圧倒的マイノリティである女子社員の場合、そもそも男社会への適応が難しいうえに、まわりの遠慮も働いて、成長の機会が男子社員に比べて少なくなるというのだ。
「その状況をつくらないのが上司の役割なのですが、現実的にはこれがなかなか難しい。男子社員と同じように接すると、パワハラやセクハラになってしまう可能性があって、腫れ物に触るような態度になってしまう。電通の高橋まつりさんは、過度に男社会に適応しようとして苦しんだのではないか」
男子社員に対しても、もちろんパワハラやセクハラはNGだ。しかし同性同士の人間関係と、異性との人間関係では、距離感が違うように感じられるのも事実だろう。男子社員は、失敗を通して成長する。男同士の安心感の中で、失敗を恐れなくもなる。しかし女子社員は、特に東大女子は、極度に失敗を恐れ、慎重になりすぎる傾向があるという。それでますます成長の機会が減る。
「ダメ出しに対する耐性が低いので、こちらもできるだけ理屈で説明しようと試みるのですが、そうすると彼女たちはもっともらしい言い訳をする。どうやってこの状況を打開するかということよりも、自分の正しさを証明することにこだわってしまっているように見える。その意味で、扱いづらい」