まわりからの評価と自己像が乖離する
特に若手のうちは、70点の仕事をたくさんしてほしいのに、東大女子は1つの仕事で120点を出そうとする傾向がある。それで時間がなくなって、結局まわりの社員が帳尻合わせをしなければいけないということも起こる。
「そうこうするうちに、成長の差が、仕事の成果の差となって現れ始めます。私の部署には2年目の東大女子と1年目の東大男子がいますが、なんと1年目の東大男子が入社して約半年で、2年目の東大女子を仕事の成果で追い抜いてしまいました」
その東大女子は鳴り物入りで部署に配属された。当然ながら周囲の期待は大きく、本人もやる気に満ちていた。しかし、なかなか成果が出せない時期が続くと、次第におとなしくなってしまった。
「その東大男子はたしかに最初からずば抜けて優秀でしたが、ここまで成長スピードに差が付いてしまうのは本人のせいではなく、もともとの企業風土が男性向けであるという構造的な問題でしょう。その点で女子社員は気の毒です。さらに入社して6~7年もすれば、優秀な人材は頭角を現します。もうその時点では成果がすべてで、学歴なんて関係ありません。多くの東大生はそこで生まれて初めて東大生以外に負けるという経験をします」
同期の中で出世に差が生じれば、悔しさや焦りを感じるのは当然だ。しかし男子社員の場合、まわりを見渡せば同じように悔しい思いをしている同期が何百人と見つかる。いっしょに酒を飲みながら肩を組んで「俺たちもそれぞれの得意分野でがんばろうぜ」などと慰め合える。
しかし総合職の女性は少ない。東大女子に限れば年に数人。その中で1人でも先に評価されると、まわりの東大女子は焦る。母集団が小さいからこそ、東大女子は仲間の中での序列を気にする傾向が強いと岡部さんは指摘する。
「焦って視野が狭くなってしまうと、仕事の成果ではなく、自分の人格が否定されたような気がしてしまうのではないでしょうか。客観的に見て仕事の成果で負けているのに、それを認めようとしない。まわりからの評価と自己像が乖離して、人間不信、職場不信になってしまいます」
これが、優秀な東大女子が男性中心の企業風土の中で埋もれていってしまう悪いシナリオだというのだ。東大女子が卒業して早々にはまるかもしれない落とし穴である。落とし穴を回避する方法として岡部さんは次のように提案する。
「圧倒的に男性向けの企業風土は早急に変えていかなければなりませんが、現実には、そう簡単に変えられるものでもない。過渡期に入社する女子社員は大変です。男性に有利なルールの中で、男性と同じようにふるまうのでは不利。しかし男性ばかりの組織において、女性であることはそれだけで差別化ポイントにもなります。男社会の中で男性と同じようにふるまうよりも、ときには男性の苦手分野でこそ能力を発揮して勝負するほうが、結果的にうまく現実に適応できるのではないかと思います。それは決して卑怯じゃない」
(文=おおたとしまさ/教育ジャーナリスト)
<関連書籍>
『ルポ東大女子』(おおたとしまさ著、幻冬舎刊、税別780円)
性差別と過度な学歴主義の融合がもたらす最強の葛藤を描く。