最近では歌手のASKAさんや酒井法子さん、元プロ野球選手の清原和博さんなど、著名人の薬物使用・所持での逮捕はそのたびに大きく報道される。
もちろん、こうした薬物汚染は芸能界だけではない。厚生労働省のデータによると、2011年時点で、15歳~64歳の国民の生涯薬物経験率は1.5%。日本全国に薬物使用者は200万人以上いるとする説もある。そして、普段意識することはなくても、私たちの生活に薬物との接点は確実にある。
■「薬物依存とは痛みの表現」ダルク代表が語る「薬物依存に陥りやすい人」
薬物依存のリハビリサポート施設「日本ダルク」代表の近藤恒夫氏は、著書『真冬のタンポポ 覚せい剤依存から立ち直る』(双葉社刊)のなかで、薬物依存を「寂しさの痛みの表現」だとしている。
「寂しさの痛み」とは、社会の中で必要とされていないという疎外感、居心地の悪さ、虚しさである。
――この痛みを抱えて生きるのは容易なことではない。憂鬱で気分の悪い毎日が続く。忍耐や辛抱、努力によってはその痛みが取り除けず、自分の力だけでは憂鬱な気分を晴らすことはできない。そんな心のすき間へ、絶妙なタイミングで、文字通り「魔が指すように」薬物が入り込み、魔法の力を発揮する。(『真冬のタンポポ 覚せい剤依存から立ち直る』P90より引用)
この痛みに耐えられなかった人を「心の弱さ」や「自己責任」のひとことで片づけてしまうのは傲慢というものだろう。育った環境や家庭状況によって生まれた頃から寂しさや孤独、生きにくさ以外のことを知らない人間もいるからである。
■薬物にハマりやすい人は「友達が少ない」
ただ、近藤氏によると依存症になりやすい人間とそうでない人間は確かにいるようだ。氏によると、ダルクに入寮してくる人には二つの共通点があるという。
一つは「友達が少ないこと」。
もう一つは「自尊心がないこと」である。
友達が少ないからこそ、その数少ない友達を失うまいとして薬物の誘惑を断れないというケースは多いようだ。また、「自尊心がない」とは言い換えれば「自分に自分で価値を見出せないこと」だ。こういう人は自分の気持ちよりも他人からどう思われるかを気にしてしまい、やはり誘いを断れないことになりがちなのだ。
自信も覚せい剤常用者だったという近藤氏は、この二つの共通点を自分自身にも当てはまっていたという。
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薬物の恐ろしさは今改めて訴えるまでもないし、犯罪であることも確かだが、国の薬物汚染対策は逮捕した人間に罰を与えるだけで更生・再起の道が少なく、これで「薬物に手を染める人間を減らす」という問題の本質的な解決になるのかという批判はあってしかるべきだろう。また、薬物に対するまちがった情報も未だに多く広まっている点にも本書では光を当てていく。
これまでは限られた人に限られた接点しかなかった薬物が、今はインターネットによって全ての人に門が開かれた状態だ。自分だけでなく家族や友人のためにも、本書を通じて薬物依存とその実態について知ってみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。