ある部署で完全に残業ゼロ達成の目前で、社員たちから抵抗が続出した意外な理由
残業に逃げるという甘え
さて、ここまでで残業がなくならない本当の理由が見えてきました。つまり、残業代がもらえること、プライベートでやることがないこと、超過労働で仕事のパフォーマンスの低さを補っていることなどです。一般の社員の人たちには、適度な残業量であればそれをなくす理由がないのですね。
仕事量が多いというのは実は表面的な理由です。もし世の中全体が、残業代が払われない仕組みに移行したら、こなせない仕事量はできないと断るはずです。会社にいたほうが居心地がいいし、場合によっては光熱費の削減にもなるというのは明らかに個人の甘えです。また、仕事のスピードが求められるとつらいという意見も、私がこの管理職だったら、では今まではいったいなんだったんだ、と言いたくなります。
かくいう私も、20代の頃は一日12時間以上の長時間労働をしていました。ですので、これまでしてきたお話は私の実体験とも大きく重なります。
しかし、20代後半に椎間板ヘルニアで2カ月ほど入院と自宅療養が必要な時期を経験してから、働き方を考えることを決めました。腰痛自体は高校生のときからの持病で、忙しく仕事をしていたことと直接関係があるかどうかわかりませんが、とにかく、毎日定時で仕事を終えると決めました。すると、おもしろいもので、それでもなんとかなるのです。確かに、それまでは長く働くことが前提であり、ときには上司がいるから帰りづらくゆっくり仕事をするようなこともありました。職場に復帰して1週間もすると、集中度を増すことで同じ量の仕事ができるようになりました。
仕事のスピードを上げるのは実は簡単でした。同じ量を半分の時間で仕上げると決めるだけでよいのです。人間は自分が思っているより能力が高いようです。無人島に取り残されると、なんとかして食べ物を探すように、追い込むことによってブレイクスルーが起こるものだなと思いました。
ところが、私の仕事は少しばかり詰めが甘い傾向にあり、大事な部分が抜けてしまうことがあり、そのために当時のチームメンバーに、私のミスの後処理で迷惑をかけることもありました。つまり個人の仕事を早く終わらせても、そのあとに問題が生じたら、余計に時間がかかってしまうということです。それもこれも、早く終わらせることが目的になっていたからです。「限られた時間でよい仕事をする」という目的に変更すれば、もう少し時間を使ってでもしておきたいことが出てくるはずです。
たとえば、仮に毎日6時に仕事を終わらせたとしても、一週間を見渡せば、品質向上のために使える隙間時間を見つけることができるはずです。リスクマネジメントのために時間を使うことで、結果的にあとでムダな時間が生じるのを防ぐことができます。
たとえば商品の企画であれば、企画内容を考えること以外にも、前もって説明しておいたほうがいいポイントを関係者に電話やメールで伝えたり、つくったものに対してマニュアルを残したりすることもあるでしょう。
仕事を早く終わらせようと、整理術や段取り術など、やり方をまず探す人が多いと思います。しかし、それ以前に「本当に早く帰る」という行為に対する意志が弱いとうまく行きません。やり方はもともと時間が限られていると思えば、アイデアはいくらでも浮かんでくるものです。
つまり、起こるかもしれない問題に対して、先回りして処理しておけば、リスクを減らすことができるということです。一週間のうちどこかでつくり出した一時間のおかげで、仕事のクオリティはほかの人よりも高くなるはずです。
仕事上なんの問題も起こさず、淡々と仕事をして毎日決まった時間で退社する人に対しては、仕事量が少ないのではないか、サボっているのではないかという印象を持ってしまいがちですが、時間の使い方を見てみれば、このような姿勢で仕事に取り組んでいるはずです。反対に、いつもドタバタしていて、次々と問題を解決している人はものすごく忙しく見えますし、本人も達成感を得ていることが多いものですが、実際のところはリスクマネジメントに十分な時間を使っていないことの裏返しでもあります。
これからの日本は、ホワイトカラーの残業が評価されない社会に間違いなくなっていきます。しかし、人から言われたことに従う人生よりは、自分の意志で決める人生のほうが幸せだと私は思います。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)